しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

今日は、せっかくの土曜日だというのに冷たい雨が降っているので、大人しく家のなかに居ることとなった。ふと思い立って、"The World of Donald Evans"から、戯れに"Stein"の章を試訳してみたりしたので、ちょっと載せてみます。 "Stein" スタインは、ベルギ…

北村初雄から吉田一穂へ、吉田一穂から三富朽葉へ この二月は東京も凍てつくような寒い日が続いたので、吉田一穂を読むにはうってつけといった感覚があった。「知性の力で極限まで表現を研ぎ澄ました〈極北の詩〉を理想とする〈孤高の詩人〉」(岩波文庫『吉…

北村初雄と「海港」派のこと 扉野良人さんが中務秀子さん主宰のリトルマガジン『DECO・CHAT』のコラムに書いていたのを読んで、大正時代の横浜に「海港」派と呼ばれた詩人たちがいたことを知った。外交官だった柳澤健、山名文夫と親しかった熊田精華、そして…

年が明けてもう十日も経つけれど、わたし(たち)はまだ心のどこかで、昨年11月の対談「小沢書店をめぐって」の余韻に浸っているようだ。トークのなかで長谷川郁夫さんがちらと言及されていた「叢書エパーヴ」や「エディシオン・エパーヴ」のことが引っ掛か…

言葉を失った状態が長くつづいたので、言葉を読むことに困難をおぼえた一年だった。上に挙げたのは、その中でのささやかな収穫です。今年は集中力を持続して読むことができなかったという外的要因もあるけれど、言葉の多い小説よりも言葉の少ない詩のほうに…

2011年の3+5(読んだ順・観た順) [小説・評論] ・デボラ・ソロモン『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』(白水社)(id:el-sur:20110308)*1 ・山田稔『日本の小説を読む』(編集グループSURE)*2 ・ローベルト・ヴァルザー『助手』(鳥影社)(id:el-…

この一年 それにしても、何という年になったのだろう。 二月の終わりに、母方の祖父が亡くなった。生粋のハマっ子で、威勢の良いべらんめえ口調は、子どもごころにも「おじいちゃん、かっこいいなあ」とわくわくするものとして届いていた。いつもこざっぱり…

ローベルト・ヴァルザー作品集2『助手』(鳥影社、2011年)*1を読み終える。 玄関のベルを鳴らしドアを開けて「宵の明星館」に入っていった若者ヨーゼフ・マルティは、最終頁でスーツケースを地面から拾い上げると人生の落伍者ヴィアジヒとともに館を出てゆ…

『ぽかん』02号が来た!貸本喫茶ちょうちょぼっこのメンバーの一人、真治彩さんの個人誌『ぽかん』02号*1が届く。美しい記念切手がたくさん貼られたうす茶の包みを郵便受けに見つけておおいに喜ぶ。これこれ、待ってたわーという感じ。山田稔さんが名付け親…

千葉市立美術館(http://www.ccma-net.jp/index.html)で13日まで開催中の《酒井抱一と江戸琳派の全貌》を観に行く。 琳派といってすぐさま色めき立つような日本美術愛好家でもないし、神坂雪佳が好きなくらいでまったく詳しくはないのだけれど、酒井抱一の…

via wwalnuts叢書09の平出隆『胡桃だより』と吉岡実『ポール・クレーの食卓』の表紙がどことなく似ているなあと思ったことを書き留めておきたい。吉岡実のこのささやかな拾遺詩集のことを突然にぽんと思い浮かべてしまったのは、ちょうど機会があって*1書肆…

「小沢書店をめぐって」のことなど この初夏、文学好きのあいだで話題となった、流水書房青山店でのブックフェア「小沢書店の影を求めて」。わたしも噂を聞きつけていそいそと二度も見に行き*1、瀟洒な目録を含めその徹底した仕事ぶりに大いに驚嘆して帰って…

紀伊國屋書店の冊子『Scripta』誌上で平出隆さんの新連載「私のティーアガルテン行」がはじまった。 「ベルリンの幼年時代」にはふしぎなことに、双子の片割れのようなテクストとして、「ベルリン年代記」というものがある。同じくみずからの幼少期を回顧す…

欧州旅行記 その3 9月26日、晴れ。美味しいけれど少し塩辛いハムとチーズを挟んだバンズにコーヒーという簡単な朝食を摂り、さっそく街へ出掛ける。トラム2番に乗り、通勤自転車の列がものすごいスピードで縦横無尽に往来をゆくのを驚きの交じった思いで眺め…

欧州旅行記 その2 9月25日、アムステルダム二日目。今日は日曜日で、武田百合子さんとフォークナーとマーク・ロスコとロベール・ブレッソンと家人の誕生日である。日没が遅いからか夜明けも遅い。薄明の時間がずいぶんと長いような気がする。運河から湿り気…

欧州旅行記 その1 9月24日夕刻、アムステルダムに到着。スキポール空港(「船の地獄」という意味をもつのだそう)から中央駅へ黄色い電車に乗る。二等車のドアを開けると、がらんとした車両のコンパートメントの壁に大きく落書きがしてあるのを見て、ああ、…

原子朗編『大手拓次詩集』(岩波文庫、1991年)を読む。うっとりするような、きれいな日本語。薔薇や香料をモティーフにした詩がたくさんある。「とび色の歌」「言葉の香気」「指の群」「日食する燕は明暗へ急ぐ」「鋏で切りとつた風景」などの散文詩もとて…