しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

24日から東京を離れてしまうので、港の人主催の「かまくらブックフェスタ」に行けないのがほんとうに残念!

机上の灯台 ノウゼンカズラの杏色の花は落下し、百日紅と芙蓉はまだたくさん咲いている。この前見たときはまだムラサキシキブの小さな実は色づいていなかったのに、今日はもうだいぶ薄紫色に変わっていた。 まっさおさおな高い空なので、日傘くるくるまわし…

われらの獲物は一滴の光:詩集『雷滴』平出隆*1 颱風の余波で風が荒れ狂っているのでおとなしく蟄居していた週末の日、郵便配達夫が透明なかごにくるまれた、じつに著者「二十四年ぶり」の新詩集『雷滴』を届けてくれた。 玉虫の翅のように美しい布張りの函…

闇のなかの微光:北村太郎つれづれ 北村太郎の好きだったドリス・デイの"Sentimental Journey"、わたしの好きなヴァージョンはHarpers Bizarreが唄った1968年録音のもの(訳は適当です)。 Gonna take a sentimental journey Gonna set my mind at ease Gonn…

ドナルド・エヴァンズを探しに 来月下旬にアムステルダムに行けることになったので、平出隆『葉書でドナルド・エヴァンズに』*1(作品社、2001年)と"Stamps from the World of Donald Evans"(雅陶堂ギャラリー、1984年)とWilly Eisenhart "The World of D…

石原輝雄『三條廣道辺り 戦前京都の詩人たち』(銀紙書房、2011年) マン・レイ・イスト氏こと石原輝雄さん(id:manrayist)より上梓されたばかりの本を一冊分けていただいた。前々から出来を愉しみに待っていた一冊である。正式な発売日はまだにもかかわら…

瀧口セラヴィ農園のオリーヴ 一九六〇年代の終りころから瀧口さんはこの庭のオリーヴの実を舞踏家の石井満隆らの協力で採取して、ピクルスを作ることを試みられた。わざわざビンを買って来られ、ラベルも印刷して、その成果は毎年幾人かの親しい友人たちに配…

水晶のように透明(クリスタル・クリア):キャサリン・マンスフィールド 書かない時間があまりに長かったので、ここに何を書いていいのかよく判らなくなってしまった。こういう時は引用に限ります(?)。時間があるので、昔読んだ本を気まぐれに読み返すと…

流水書房青山店にて「小沢書店の影を求めて」の棚を見る 小沢書店の本はないけれど、小沢書店の世界があるっていったいどんなだろう?と、読書好きの方たちのあいだで話題になっているので気になっていた。 うちの本棚にはぽつぽつとしか小沢書店の本は並ん…

3.11から三ヶ月が過ぎた。もう三ヶ月経ったのかという思いと、まだ三ヶ月しか経っていないのかという思いが交錯している。ここでは、つらいこと嫌なことについては書かないと約束としていたし、愉しみとして読んで下さっている方々にはとても申し訳ないこと…

『別れの手続き 山田稔散文選』(みすず書房、2011年)*1を読む 親切な方がみすずの山田稔さんの新刊が出ましたね、と教えてくれたので、そうだった、忘れとった、そうだった、とさっそく本屋に行って買ってきて、休日の午后をつかってすっかり全部読んでし…

マックス・ブロート宛 [プラナー、消印 1922.7.5].......なんと脆弱な地盤、というよりまるで存在もしない地盤のうえに僕は生きていることか。足の下は暗闇だ。そして暗い力がそこから、みずからの意志で生まれ出て、僕が口ごもる言葉なぞ歯牙にもかけず僕の…

メモ:カフカがローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』について書いている。 アイスナー取締役宛[プラハ、おそらく1909年]親愛なるアイスナー様、御恵送ありがとうございます。 私の専門の勉強は、いずれにしてもはかばかしくありません。 ヴァルザー…

心が穏やかでない日がつづくので、毛布をすっぽりかむり暗がりで鼻のあたまをひいやりとさせながら、東塔堂(http://totodo.jp/)で購入した、ドナルド・エヴァンズの画集"The World of Donald Evans"(text by Willy Eisenhart : Amsterdam : Bert Bakker, 1…

書かないこと、沈黙することを選び採るという強さを尾崎翠から学んでいた筈だのに、わたしは独りでおろおろしあたふたし、にわか知識で要らぬことばかりをぴいちく囀っていて大へんよろしくない。自重せよ。

たいへんなことになっている、と書いてゆくそばから、文字がさらさらと細かい砂粒となって形をとどめないような心地がしている。ここちあし。もう揺れてもいないのにずっと揺れているような船酔いのような気分で、電話の警告音のたびに心臓を掴まれ、ふとす…

庭師コーネルの魔法の手:『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』 ジョゼフ・コーネルの創造する箱という名の小さなうつわに漠然と惹かれつづけてきた。幻想の標本函、夢の記憶装置。瞬間を封じ込めた永遠に在り続ける宇宙――。 デボラ・ソロモン著/林寿…