しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

art

『EUREKA/ユリイカ』ふたたび

ことし桜が満開の頃にこの世を去った、青山真治の『ユリイカ』をテアトル新宿で観た。 ロートレアモンを読む中学生、取り調べ室に置かれたエビアン。 この映画をはじめて観た時は、こちらが若かったこともあり、こういった細部がどうも鼻についてしまって、…

夏休み読書で、田中純『過去に触れるー歴史経験・写真・サスペンス』(羽鳥書店)。著者の『冥府の建築家』には感銘を受けたので、第2章のアーカイブの旅はスリリングだった。 「死者から選ばれている」と思い込むに至るのは、気の遠くなるようなアーカイブ…

白倉敬彦さん

白倉敬彦さんが亡くなられたとのこと。先月、ブログに「白倉敬彦 逝去」で検索してきた人がいて、おかしいな、と思っていたのだけれど、Wikipediaにも何も書かれていなかったので、きっと誤報だろうと思っていた。ひと月も前に亡くなられていたのだ。笠間書…

自分用メモ:平出隆×加納光於「装幀をめぐって」 聞き手を平出さんがつとめ、加納さんが答えるというような図式ではじまった。まず、最初に加納さんがおっしゃったのは、自分は絵描きで専門のブックデザイナーではないのに、どうして装幀を頼んでくるのか?…

1983年のジョゼフ・コーネル映画祭

京橋のフィルムセンター図書室には、あらゆる映画資料を収集対象としているだけあって、こんなもの(リーフレット)まで所蔵されているのである。すごい(!)。1983年のその場に立ち会えなかった者として、せめて記録だけでもここに書きとめておきます。 1.…

five pieces of 2013

2013年に読んで観てよかったものを備忘録として五本ずつ。今年はあまり映画は観られなかったのでパス。それにしても、雑事にかまけて年々読書量が落ちてきているのが深刻...。来年こそちゃんと本を読む生活をしたいと思う。 読んだ順・ジェイムズ・ジョイス…

12月最初の日曜日、足利市立美術館(http://www.watv.ne.jp/~ashi-bi/2013-takiguchi-jikai.html)にて《詩人と美術―瀧口修造のシュルレアリスム》展を観た。お目当ては、吉増剛造さんの講演会「瀧口修造 旅する眼差し」である。 特急りょうもう号に乗り込ん…

T先生のこと 平塚市美術館へ《藤山貴司》展を観に行く。 藤山先生は、と書いてみて、わたしはかつて一度も「藤山先生」などと呼んだことはなかったのだから、貴司先生、と書く方がしっくりくる。貴司先生は、子どもの頃に通っていたアートフォーラムの先生だ…

crystal cage叢書: 河野道代『時の光』(TPH, 2012年)を読む これは、身辺雑記と括られるたぐいのものかもしれないが、驚くべき「性能」をもった眼を通し、磨き上げた鉱物のような光を放つ言葉をそこに配することで、これほどの高次な芸術に貌を変えること…

《東京 ローズ・セラヴィ―瀧口修造とマルセル・デュシャン》展 先週の土曜日、慶応義塾大学アート・スペースへ《東京 ローズ・セラヴィ―瀧口修造とマルセル・デュシャン》展を見に行く。小さな展示であったが、ゆっくりじっくり眺めてずいぶんと長居した。手…

叢書crystal cage 16日の夜、青山のSpiral Recordsにて、crystal cage叢書刊行記念トークセッション(平出隆+港千尋+三松幸雄)*1に参加した。 版元のTPH(Tokyo Publishing House)の横田茂さんと平出隆さんとのあいだで、かれこれ10年以上の長きにわたっ…

旅の親密なスーヴニール:『瀧口修造1958 旅する眼差し』(慶應義塾大学出版会、 2009年) *1刊行当時からいつか手に取ってみたいなと思っていたこの本(箱?)をようやくじっくり読む(見る)機会を与えられた。 1958年、瀧口修造はヴェネツィア・ビエンナ…

平出隆《FOOTNOTE PHOTOS》展 ――葉書でドナルド・エヴァンズに 写真と郵便による「もうひとつの世界」への旅 http://www.spiral.co.jp/e_schedule/2012/05/spiral-records-presents-goro-i.html 「通常の切手の脇に、あなたの切手を並べて貼ったものです。郵…

今日は、せっかくの土曜日だというのに冷たい雨が降っているので、大人しく家のなかに居ることとなった。ふと思い立って、"The World of Donald Evans"から、戯れに"Stein"の章を試訳してみたりしたので、ちょっと載せてみます。 "Stein" スタインは、ベルギ…

2011年の3+5(読んだ順・観た順) [小説・評論] ・デボラ・ソロモン『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』(白水社)(id:el-sur:20110308)*1 ・山田稔『日本の小説を読む』(編集グループSURE)*2 ・ローベルト・ヴァルザー『助手』(鳥影社)(id:el-…

千葉市立美術館(http://www.ccma-net.jp/index.html)で13日まで開催中の《酒井抱一と江戸琳派の全貌》を観に行く。 琳派といってすぐさま色めき立つような日本美術愛好家でもないし、神坂雪佳が好きなくらいでまったく詳しくはないのだけれど、酒井抱一の…

紀伊國屋書店の冊子『Scripta』誌上で平出隆さんの新連載「私のティーアガルテン行」がはじまった。 「ベルリンの幼年時代」にはふしぎなことに、双子の片割れのようなテクストとして、「ベルリン年代記」というものがある。同じくみずからの幼少期を回顧す…

われらの獲物は一滴の光:詩集『雷滴』平出隆*1 颱風の余波で風が荒れ狂っているのでおとなしく蟄居していた週末の日、郵便配達夫が透明なかごにくるまれた、じつに著者「二十四年ぶり」の新詩集『雷滴』を届けてくれた。 玉虫の翅のように美しい布張りの函…

瀧口セラヴィ農園のオリーヴ 一九六〇年代の終りころから瀧口さんはこの庭のオリーヴの実を舞踏家の石井満隆らの協力で採取して、ピクルスを作ることを試みられた。わざわざビンを買って来られ、ラベルも印刷して、その成果は毎年幾人かの親しい友人たちに配…

庭師コーネルの魔法の手:『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』 ジョゼフ・コーネルの創造する箱という名の小さなうつわに漠然と惹かれつづけてきた。幻想の標本函、夢の記憶装置。瞬間を封じ込めた永遠に在り続ける宇宙――。 デボラ・ソロモン著/林寿…

美術と詩 多摩美術大学主宰の連続講座第29回「美術と詩―ライン、ストローク、想像力、物質」(講師:平出隆)を聴講するため、上野毛キャンパスへゆく。 詩における「ライン=行」と美術における筆はこび「ストローク」。行為のあり方として両者はよく似てい…

続・橋本平八とその時代――表現主義をめぐって 『MADAME BLANCHE』の全17号が収録されるというので楽しみに待っていた『コレクション・都市モダニズム詩誌 第13巻 アルクイユクラブの構想』*1をいそいそと図書館で閲覧してきた。いちばんのお目当ては橋本平八…

2010年の3(観た順、読んだ順) [小説・評論]: ・平出隆『鳥を探しに』(双葉社)(id:el-sur:20100125)*1 ・川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店)(id:el-sur:20100408)*2 ・ローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』(鳥影社)(id:el-sur:201012…

素朴な月夜:左川ちかと古賀春江 ある日、小野夕馥さんの森開社から『左川ちか全詩集』新版が届いた。初収録の作品なども多数含む待ちに待った増補改訂版である。ほとんど黒に近いマットな濃紺の紙でくるまれた装幀はとてもシックで、"夜の詩人"左川ちかにぴ…

ふたたび、橋本平八とその時代 『純粋彫刻論』で取り上げられていた画家や彫刻家と橋本平八の関係を調べるには、日本における表現主義の受容を見ておかねばならぬと思い、当時の資料など(日高昭二・五十殿利治監『海外新興芸術論叢書』(ゆまに書房、2005年…

橋本平八とその時代――表現主義をめぐって ある日、仕事で書誌を確認するために眺めていた画集"Avant-gardes du XXe siècle arts et littérature 1905-1930"(Flammarion, 2010)に掲載されている、とある図版に目が釘付けになった。 目を凝らしてクレジットを…

モダニスト橋本平八:Hashimoto Heihachi, the modernist 橋本平八の代表作の一つに《裸形少年像》(1927年)という作品がある。今回の世田谷美術館の展示では、この像は最初の扇部屋に配置されており、ぐるりと360度観ることができる。後ろにまわると背中心…

昨日はとある方のご好意により、世田谷美術館(http://www.setagayaartmuseum.or.jp/index.html) にて開催中の【異色の芸術家兄弟――橋本平八と北園克衛展】オープニング・レセプションに参加させていただく。ありがたきことなり。遅れて会場入りしたので、講…

fragile, handle with care: via wwalnuts叢書01: 平出隆『雷滴 その拾遺』*1 郵便受けを覗いてみると、百舌の切手を貼った白い封筒が届いていた。差出人住所は、"iaa at tama art university"気付になっていて、その下に銀色のペンで、平出隆氏のイニシャル…

橋本平八から折口信夫へ、ボン書店経由で北園克衛へ いつもの東京ではなく、生誕地である三重で【異色の芸術家兄弟――橋本平八と北園克衛展】(三重県立美術館)を観たことで、いきおい郷里の風土のようなものが、兄弟の芸術にどのような影響を与えているのか…