しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

crystal cage叢書: 河野道代『時の光』(TPH, 2012年)を読む これは、身辺雑記と括られるたぐいのものかもしれないが、驚くべき「性能」をもった眼を通し、磨き上げた鉱物のような光を放つ言葉をそこに配することで、これほどの高次な芸術に貌を変えること…

《東京 ローズ・セラヴィ―瀧口修造とマルセル・デュシャン》展 先週の土曜日、慶応義塾大学アート・スペースへ《東京 ローズ・セラヴィ―瀧口修造とマルセル・デュシャン》展を見に行く。小さな展示であったが、ゆっくりじっくり眺めてずいぶんと長居した。手…

叢書crystal cage 16日の夜、青山のSpiral Recordsにて、crystal cage叢書刊行記念トークセッション(平出隆+港千尋+三松幸雄)*1に参加した。 版元のTPH(Tokyo Publishing House)の横田茂さんと平出隆さんとのあいだで、かれこれ10年以上の長きにわたっ…

アオイ書房『新詩論』を閲覧する オレンジ色のかぼちゃを模した飾り付けに彩られた住宅地のあいだを通ってゆく。なぜかわたしが駒場の近代文学館に行くのは決まって10月のこの時期なのだなあ、と今年もそんな家々を眺めやりながら思う。わたしはハロウィンと…

78 リスは、すなわち木鼠です。地上へも来ますが、多くは樹のうえをまわり歩いて、植物質を荒します。リスの食わない樹の実は少ないくらいでしょう。ことにブナ、カシ、クルミの果実は、ひどくわたしの好むところであります。 平出隆『胡桃の戦意のために』…

十月

「......彼の家の傍には、大きな樹々の並木道がございました。そこを端から端まで、往ったり来たり逍遥しながら、彼は幾時間もの間、自分の孤独極まりない身の上を思い続けたり、遐かなくさぐさの存在が、その暗がりの不気味な深みの中に、まだ何か、希望と…

『三富朽葉詩集』(第一書房、1926年)の書影は、現在発売中の『アイデア』No.354「特集・日本オルタナ出版史1923-1945 ほんとうに美しい本」(http://www.idea-mag.com/jp/publication/354.php)の42頁にぴかぴかのカラーで掲載されています。22日に開催され…

詩集を遺さなかった詩人・増田篤夫のこと 「透明な世界に於ては、凡てが秩序である。秩序は自由である」(三富朽葉) 青木重雄『青春と冒険 神戸の生んだモダニストたち』(中外書房、1959年)は、モダン都市・神戸のもっともよき時代を小松清・竹中郁・稲垣…

清岡さんのこと 『アイデア』No.354を何度も眺めていたら、K氏のことを思いだした。そうしたら、何となく原口統三のことを思いだしたので、ふと思い立って、読みさしのままになっていた、清岡卓行『海の瞳 原口統三を求めて』(文藝春秋、1971年)を読んでみ…

旅の親密なスーヴニール:『瀧口修造1958 旅する眼差し』(慶應義塾大学出版会、 2009年) *1刊行当時からいつか手に取ってみたいなと思っていたこの本(箱?)をようやくじっくり読む(見る)機会を与えられた。 1958年、瀧口修造はヴェネツィア・ビエンナ…

・神奈川近代文学館『近藤東文庫目録』(http://www.kanabun.or.jp/0e00.html)竹中郁 書簡(パリ、マドリッド、ニース)1920年代絵葉書 *これは閲覧不可? 竹中郁没後三周年記念パンフレット(梅田近代美術館、編集工房ノア、1985.4.6) 竹中郁『一匙の雲…

『IDEA』No.354: 日本オルタナ出版史 1923-1945 ほんとうに美しい本(http://www.idea-mag.com/jp/publication/354.php)を感嘆のため息とともにうっとり眺めていたら、ふつふつと昔の書物にたいするおもいが膨らんできた。いつか閲覧したいな、と思って記録…

ホセ・ルイス・ゲリン『影の列車』を観る イメージフォーラムにて開催中の「ホセ・ルイス・ゲリン映画祭」より、『影の列車』(1997年)を観た。1930年11月8日の薄明の時刻、 ル・テュイ湖畔で一人のアマチュア映画愛好家が消息を絶つ。あとには、彼の行方不…

多田智満子を読む ふと気になって手に取った多田智満子の詩があんまり素敵なので驚いている。「多田智満子」の名前は、マルグリット・ユルスナールの翻訳者としては届いていたけれど、詩篇はほとんど読んだことがなかった。おお、わたしはいつも遅すぎる。 …

光の束、緑の層 小さな緑色の石を受け取ってから、青山ブックセンターへ。『本の島』発刊記念ということで、吉増剛造×堀江敏幸のトークイベントがあり、それを聴きに行った。昨年の秋に知り合ったばかりというのに、どこか懐かしい感じのするnさんとのつなが…

平出隆《FOOTNOTE PHOTOS》展 ――葉書でドナルド・エヴァンズに 写真と郵便による「もうひとつの世界」への旅 http://www.spiral.co.jp/e_schedule/2012/05/spiral-records-presents-goro-i.html 「通常の切手の脇に、あなたの切手を並べて貼ったものです。郵…

FOOTNOTE PHOTOS 02『アクテルデイク探訪』 http://www.wwalnuts.jp/vww/11/ 1. 十時半、というのだから、午前中のことである。けれども、フロントグラスをへだてて映しだされる空は靄がかり、湿り気を帯びた粒子が肌に纏わってゆくように見える。灰緑色と水…