しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

2010-01-01から1年間の記事一覧

2010年の3(観た順、読んだ順) [小説・評論]: ・平出隆『鳥を探しに』(双葉社)(id:el-sur:20100125)*1 ・川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店)(id:el-sur:20100408)*2 ・ローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』(鳥影社)(id:el-sur:201012…

2010年も暮れてゆきます今年はいつもより一日早い仕事納めであった。27日の寒い晩、荻窪のカフェ6次元であった稲垣足穂イヴェント*1に駆けつけて、その余韻とともに、うちにある数少ない足穂関係の本であるところの高橋信行編『足穂拾遺物語』(青土社、2008…

素朴な月夜:左川ちかと古賀春江 ある日、小野夕馥さんの森開社から『左川ちか全詩集』新版が届いた。初収録の作品なども多数含む待ちに待った増補改訂版である。ほとんど黒に近いマットな濃紺の紙でくるまれた装幀はとてもシックで、"夜の詩人"左川ちかにぴ…

ふたたび、橋本平八とその時代 『純粋彫刻論』で取り上げられていた画家や彫刻家と橋本平八の関係を調べるには、日本における表現主義の受容を見ておかねばならぬと思い、当時の資料など(日高昭二・五十殿利治監『海外新興芸術論叢書』(ゆまに書房、2005年…

ローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』*1(鳥影社、2010年)読了。久しぶりに小説を読んで感銘を受ける。昔、外国の小説を読んでいた頃の、久しく忘れていた胸の高鳴りを思い出す。繊細で、優美で、きらきらと波間がゆらめくような旋律が響いてくる、…

橋本平八とその時代――表現主義をめぐって ある日、仕事で書誌を確認するために眺めていた画集"Avant-gardes du XXe siècle arts et littérature 1905-1930"(Flammarion, 2010)に掲載されている、とある図版に目が釘付けになった。 目を凝らしてクレジットを…

モダニスト橋本平八:Hashimoto Heihachi, the modernist 橋本平八の代表作の一つに《裸形少年像》(1927年)という作品がある。今回の世田谷美術館の展示では、この像は最初の扇部屋に配置されており、ぐるりと360度観ることができる。後ろにまわると背中心…

私的メモ:島本融と北園克衛 返本の時に、ふと書庫で目についた『株式会社紀伊國屋書店 創業五十年記念誌』(非売品・昭和五十二年、紀伊國屋書店)という本をぱらぱらとやったら、これはとてもおもしろそうだとピンと来てさっそく借り出してくる。収録され…

金澤一志『北園克衛の詩』(思潮社、2010年)*1 ご恵贈いただきました。ありがとうございます。 小ぶりの瀟洒な白い本は著者自装。カヴァをはずすとフランス語が躍っていてまるで洋書のような佇まいである。洗練の極みとも言うべきスタイリッシュな北園克衛…

昨日はとある方のご好意により、世田谷美術館(http://www.setagayaartmuseum.or.jp/index.html) にて開催中の【異色の芸術家兄弟――橋本平八と北園克衛展】オープニング・レセプションに参加させていただく。ありがたきことなり。遅れて会場入りしたので、講…

fragile, handle with care: via wwalnuts叢書01: 平出隆『雷滴 その拾遺』*1 郵便受けを覗いてみると、百舌の切手を貼った白い封筒が届いていた。差出人住所は、"iaa at tama art university"気付になっていて、その下に銀色のペンで、平出隆氏のイニシャル…

余分の豊かさが溢れている書物:関口良雄『昔日の客』 関口良雄『昔日の客』*1が夏葉社(http://natsuhasha.com/)から復刊された。 これは一部の古本愛好家のあいだで「幻の名著」とされていた古本エッセイで、わたしは去年、出来ごころで参加した「西荻ブッ…

オリヴェイラ『アニキ・ボボ』(1942年)は瑞々しい傑作だった フィルムセンターにて、マノエル・ド・オリヴェイラ『アニキ・ボボ』(1942年)を観る。『ドウロ河』(今回は来ないんだわ残念)『カニバイシュ』と並んで、長いあいだ観る日を待ち望んでいた一本…

橋本平八から折口信夫へ、ボン書店経由で北園克衛へ いつもの東京ではなく、生誕地である三重で【異色の芸術家兄弟――橋本平八と北園克衛展】(三重県立美術館)を観たことで、いきおい郷里の風土のようなものが、兄弟の芸術にどのような影響を与えているのか…

青木繁《海の幸》、伊良子清白、モーリス・ドニ《セザンヌ礼賛》 青木繁《海の幸》をはじめて間近に観たのは、確か神奈川県立近代美術館の企画展だったような記憶があるけれど、それがいつのことだったかはもう思い出せない。とにかく「凄い絵だなあ」と思っ…

三重旅行記 その2 津の県立美術館を常設展まで堪能したあと、南下してその日は伊勢に泊まった。そこでいくつかの偶然が重なり、忘れがたい旅の醍醐味を味わったのだった、と言いつつ、ここでは詳しくは書きませんが。嬉しかった/愉しかった記憶は、それだけ…