しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

murmur

週末つれづれ記: 先週の新文芸座での小津安二郎特集では、無事に岡田時彦主演の映画を二本鑑賞することができ、ほっとしているところ。改めて見直してみると『淑女と髯』(1931年)は傾向映画すれすれの危なっかしさ(字幕や脚本には無いものの髭面のマルク…

映画メモ:小津安二郎のモダニズム 新文芸座で小津安二郎特集がはじまっているというのに、雑務に追われてなかなか行けなかったのを、これだけは!と休みを取って観に行く。小津作品はしょっちゅう何処かで上映されているけれど、サイレント時代の作品は『生…

京阪神遊覧日記その三:大雄寺へ山中貞雄のお墓参りにゆく 阪急電車に揺られて京都へゆく。京都、ああ、ご無沙汰の京都....!こんなに好きな土地なのに三年振りである。京都の地に降り立つだけで嬉しくてそわそわ、三条のホテルにさっさと荷物を預けて、いざ…

京阪神遊覧日記その二:「けれども三昧」ー待兼山で『大大阪観光』(1937年)を観る 二日目は駆け足での大阪観光であった。阪急宝塚線に乗って、大阪大学総合学術博物館にて開催中の《昭和12年のモダン都市へ 観光映画「大大阪観光」の世界》を観に行く。成…

京阪神遊覧日記その一:神戸アカデミー・バーつれづれ 二年越しで訪問を心待ちにしていた1922年創業のバー・アカデミーにようやくゆくことができた。「つたのからんだ ある ふるい」小屋という感じの、つやつやした初夏の若草色の蔦に覆われたその建物は、バ…

久生十蘭「妖術」のモデルのこと 京阪神行きの資料も読みつつ、灰色のクロス製本が美しい『定本久生十蘭全集1』(国書刊行会、2008年)*1を合い間合い間に読んでいるのだけれど、1938年に執筆された三一書房の全集未収録の「妖術」という作品が気になってい…

HE COMES FROM KOBE 尾崎翠作品の初出誌を半日書庫に籠って色々調べていた時に、『新科学的文藝』に掲載されていた稲垣足穂の級友・衣巻省三の神戸に関するエッセイがちょいと素敵だったのでコピーしておいたのを今になって引っ張り出してみる。ええ、何故っ…

 シンポジウム「尾崎翠の新世紀」無事に全日程を終了いたしました!

ご出演いただいたみなさま、場所を提供してくださった日本近代文学館のみなさま、関係者ならびプレスのみなさま、そして何よりもこのシンポジウムに足を運んでくださったみなさまに心よりお礼を申し上げます。公式ページの方でご意見・ご感想を募集しており…

本日代休、歯医者の日。今月は文字通り休日返上で尾崎翠と入試業務(ようやっと終わった.....)の日々。それでも、これだけはと駆け込みで観に行った銅版画家・山下陽子さんとyoshinobの展示は、パリのギャラリーみたいな場所含めてうっとり指数120て感じの…

美しい装丁と洒脱なセンスで他の追随を許さない「日本のガリマール」(って今勝手に名付けた)こと、みすず書房の発行している、月刊『みすず』(http://www.msz.co.jp/book/magazine/)最新号no.568(2009年1・2月号)は「読書アンケート特集」。 みすずの…

「尾崎翠の新世紀」チラシ5000部が無事に届くべきところに届いたとの連絡。昨年秋から抱えていた懸案が、これでようやくひとつクリアになって、とりあえずほっとする。平山亜佐子さん(id:achaco)によるたいへん繊細で美しい仕事(タイトルは戦前の本からひ…

あけましておめでとうございます。 昨年は幸せなマキノ映画通いからスタートして幸先いいナアと思っていたのですが、下半期以降は非定型歯痛に悩まされつづけてかなりしんどかったし、11月からは色々とイレギュラーが重なってにわかに身辺慌ただしく、振返っ…

見たことを忘れないうちに映画メモ。 この忙しいのに、そして体調もイマイチなのに、新文芸座に『限りなき前進』『人情紙風船』という豪華二本立てなので、これだけは、と、いそいそと観に行く。 小津安二郎が原作「愉しき哉保吉君」を書き(と、いうか野上…

僕のあやまち 神保町シアターにて、山田五十鈴特集の中の一本、マキノ正博『待って居た男』(東宝、1942年)を二年振りに観る。今年は一月からマキノ漬けの日々を過ごし、年末になってもまだマキノを観ている。まさに2008年はわたしにとっても幸福なマキノ・…

と、久々の更新がお知らせだけじゃ何なので......。 本日12月11日は1908年生まれのマノエル・ド・オリヴェイラ、100回目のお誕生日!ワオ!マキノ雅弘と同い年(←正確には早生まれだから違うけど)で、2008年現在に存命しているだけでも凄いのに、しかも現役…

chiclin et mitsouが無事に終わり、続けてH大学での四日間みっちりの講習週間が終わったかと思ったら、明けて今週からは担当業務の変更とその引き継ぎと、おまけに来年三月まで抱えてるイヴェントとで、もうばたばた。心がいつまでもざわざわと落ち着かずに…

モダン都市・函館周遊 その2 横浜や神戸などもそうだが、ここ函館も坂の多い街だ。港街と呼ばれるような場所は皆そうなのだろうか。そうして、だいたい山の上に外国人の旧居留地があったり、洋館や教会が立ち並んでいたりする。横浜の山の手、神戸の北野、函…

モダン都市・函館周遊 その1 連休を使って函館に行く。海野弘『久生十蘭ー『魔都』『十字街』解読』所収の「モダン都市函館」を読んで、それから川崎賢子『彼等の昭和ー長谷川海太郎・りん二郎・濬・四郎』を再読していたら、むくむくと函館行きへの思いが頭…

モダン都市函館つれづれ 函館には一度だけ行ったことがある。 路面電車が行き交い、坂の多い、潮の匂いのする港町。坂を上るとブルーグレーに黄色の配色が鮮やかな旧函館区公会堂をはじめとする素敵な洋館や教会建築が立ち並ぶハイカラでモダンな街。ハリス…

お盆休み、少しの遠出は逗子の祖父母に会いに行ったくらいで、フィルムセンターに『喜劇の黄金時代』を、アテネフランセに鈴木英夫を観に行って、国会図書館でいくつか調べものをして、あとの残りは家で海野弘『久生十蘭ー『魔都』『十字街』解読』(右文書…

ご無沙汰しております。気が付けばもうお盆の週。前から観たかった村田実『霧笛』(新興キネマ、1934年)を観たことや、岡田時彦が子供の頃にはじめて活動写真『名金』を観たという伊勢佐木町のオデヲン座跡を詣でて「おお!」と感動したこととか、自転車で…

神戸モダニズム周遊 気になる神戸モダニズム、という訳で、安水稔和『竹中郁 詩人さんの声』(編集工房ノア、2004年)を読んでいるのだけれど、文中で四番目の詩集『象牙海岸』(昭和七年)に収録されているシネポエム「ラグビイ」を引いていて、副題のとこ…

来月の下旬からはじまるぴあフィルムフェスティバル、招待作品は前から観てみたかったダグラス・サーク特集と聞いて張り切ってプレオーダーでチケット取った(ら、なんか謎なお金がたくさん計上されて嫌でした.....)のですが、いったいどの作品を観たらいい…

Her Little Red Book 南天堂繋がりで内堀弘『石神井書林日録』(晶文社)を読んで、もう何年も前から読もうかどうかつらつら考えてそのままになってしまっていた『ボン書店の幻 モダニズム出版社の光と影』(白地社、1992年)*1をようやくここへ来て読む。後…

南天堂つれづれ 四月の終わりに、森まゆみ『断髪のモダンガール』と扉野良人『ボマルツォのどんぐり』を立て続けに読んでいたら、白山上の南天堂のことが出てきたので、ああ、そうだった、南天堂!といつものパタンでにわかに気になり出して、それからほどな…

英パンが亡くなった時、棺に一緒に収められたという話を知ってからというもの、谷崎潤一郎『蓼喰う虫』(昭和三年、改造社、装丁:小出楢重)はわたしにとって特別な一冊となった。まだ岡田時彦のことを知らなかった頃、読み差しのまま止してしまっていたの…

相変らず雑務に追われる黄金週間。

『天然生活』という雑誌で、マリコさん(http://www.mitsou.org/)がわたし宛にお手紙を書いてくれたと聞いて、買って読む。「平つか」のあのクローバーと薔薇の絵葉書、文通してた頃を思い出して懐かしいね。二十代の頃、わたしは銀座の洋書屋で働いていて…

NHKのETV特集『神聖喜劇再び 〜作家・大西巨人の闘い〜』を見た。大西巨人『神聖喜劇』を読んだのはもうかれこれ8年も前(!)のことだけれど、未だにあの圧倒的な読書体験を思い出すたびにふつふつと感動が蘇ってくる。 →「私家版日本十大小説」(id:el-sur:…

ジャン・ルノワール『フレンチ・カンカン』(1954年)をはじめて観たのは、もう何年も何年も前のことで、その頃はまだ有楽町の駅前には「レバンテ」だって「ももや」(ああ、ホウ・シャオシェンの『珈琲時光』!)だってあったし、郊外のショッピングモール…