しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

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流水書房青山店にて「小沢書店の影を求めて」の棚を見る 小沢書店の本はないけれど、小沢書店の世界があるっていったいどんなだろう?と、読書好きの方たちのあいだで話題になっているので気になっていた。 うちの本棚にはぽつぽつとしか小沢書店の本は並ん…

『別れの手続き 山田稔散文選』(みすず書房、2011年)*1を読む 親切な方がみすずの山田稔さんの新刊が出ましたね、と教えてくれたので、そうだった、忘れとった、そうだった、とさっそく本屋に行って買ってきて、休日の午后をつかってすっかり全部読んでし…

マックス・ブロート宛 [プラナー、消印 1922.7.5].......なんと脆弱な地盤、というよりまるで存在もしない地盤のうえに僕は生きていることか。足の下は暗闇だ。そして暗い力がそこから、みずからの意志で生まれ出て、僕が口ごもる言葉なぞ歯牙にもかけず僕の…

メモ:カフカがローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』について書いている。 アイスナー取締役宛[プラハ、おそらく1909年]親愛なるアイスナー様、御恵送ありがとうございます。 私の専門の勉強は、いずれにしてもはかばかしくありません。 ヴァルザー…

心が穏やかでない日がつづくので、毛布をすっぽりかむり暗がりで鼻のあたまをひいやりとさせながら、東塔堂(http://totodo.jp/)で購入した、ドナルド・エヴァンズの画集"The World of Donald Evans"(text by Willy Eisenhart : Amsterdam : Bert Bakker, 1…

庭師コーネルの魔法の手:『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』 ジョゼフ・コーネルの創造する箱という名の小さなうつわに漠然と惹かれつづけてきた。幻想の標本函、夢の記憶装置。瞬間を封じ込めた永遠に在り続ける宇宙――。 デボラ・ソロモン著/林寿…

美術と詩 多摩美術大学主宰の連続講座第29回「美術と詩―ライン、ストローク、想像力、物質」(講師:平出隆)を聴講するため、上野毛キャンパスへゆく。 詩における「ライン=行」と美術における筆はこび「ストローク」。行為のあり方として両者はよく似てい…

『マダム・ブランシュ』つれづれ:酒井正平と「小さな時間」 あまりに日があいてしまったので日記の書き方を忘れてしまった.....!いやはや。 メモしておきたいと思っていてまだ書いていなかったこと。図書館にて朝も早よから『MADAME BLANCHE』(マダム・ブ…

頌春お正月休みも今日で終わり。ほんとうは、お休み中に課題図書(おお!)であるところの、土肥美夫『ドイツ表現主義の芸術』(岩波書店、1991年)を読み進めて、腕まくりしながら橋本平八の二十年代研究に取り組みたいと思っていたのだけれども、半分瞼が…

2010年の3(観た順、読んだ順) [小説・評論]: ・平出隆『鳥を探しに』(双葉社)(id:el-sur:20100125)*1 ・川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店)(id:el-sur:20100408)*2 ・ローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』(鳥影社)(id:el-sur:201012…

素朴な月夜:左川ちかと古賀春江 ある日、小野夕馥さんの森開社から『左川ちか全詩集』新版が届いた。初収録の作品なども多数含む待ちに待った増補改訂版である。ほとんど黒に近いマットな濃紺の紙でくるまれた装幀はとてもシックで、"夜の詩人"左川ちかにぴ…

ローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』*1(鳥影社、2010年)読了。久しぶりに小説を読んで感銘を受ける。昔、外国の小説を読んでいた頃の、久しく忘れていた胸の高鳴りを思い出す。繊細で、優美で、きらきらと波間がゆらめくような旋律が響いてくる、…

私的メモ:島本融と北園克衛 返本の時に、ふと書庫で目についた『株式会社紀伊國屋書店 創業五十年記念誌』(非売品・昭和五十二年、紀伊國屋書店)という本をぱらぱらとやったら、これはとてもおもしろそうだとピンと来てさっそく借り出してくる。収録され…

金澤一志『北園克衛の詩』(思潮社、2010年)*1 ご恵贈いただきました。ありがとうございます。 小ぶりの瀟洒な白い本は著者自装。カヴァをはずすとフランス語が躍っていてまるで洋書のような佇まいである。洗練の極みとも言うべきスタイリッシュな北園克衛…

fragile, handle with care: via wwalnuts叢書01: 平出隆『雷滴 その拾遺』*1 郵便受けを覗いてみると、百舌の切手を貼った白い封筒が届いていた。差出人住所は、"iaa at tama art university"気付になっていて、その下に銀色のペンで、平出隆氏のイニシャル…

余分の豊かさが溢れている書物:関口良雄『昔日の客』 関口良雄『昔日の客』*1が夏葉社(http://natsuhasha.com/)から復刊された。 これは一部の古本愛好家のあいだで「幻の名著」とされていた古本エッセイで、わたしは去年、出来ごころで参加した「西荻ブッ…

橋本平八から折口信夫へ、ボン書店経由で北園克衛へ いつもの東京ではなく、生誕地である三重で【異色の芸術家兄弟――橋本平八と北園克衛展】(三重県立美術館)を観たことで、いきおい郷里の風土のようなものが、兄弟の芸術にどのような影響を与えているのか…

青木繁《海の幸》、伊良子清白、モーリス・ドニ《セザンヌ礼賛》 青木繁《海の幸》をはじめて間近に観たのは、確か神奈川県立近代美術館の企画展だったような記憶があるけれど、それがいつのことだったかはもう思い出せない。とにかく「凄い絵だなあ」と思っ…

昨日は、原宿のブックカフェBibliotheque(ビブリオテック)*1主宰の、『鳥を探しに』刊行記念・平出隆トークショー「散文へのまなざし」を聞きに行く。昨年11月の「西荻ブックマーク」(id:el-sur:20091117)での扉野良人さんとの対話の中で、準備中のこの…

今週末に北参道のBibliotheque(ビブリオテック)*1なるブックカフェ――スペルはフランス語なのに、読み仮名は促音のドイツ語ふうなのが不思議といえば不思議――にて行われる、平出隆『鳥を探しに』刊行記念トークショー「散文へのまなざし」にいそいそと予約…

折口信夫と尾崎翠のこと その2 「学校の後園に、あかしやの花が咲いて、生徒らの、めりやすのしやつを脱ぐ、爽やかな五月は来た。」(釋迢空「口ぶえ」) 「口ぶえ」という小説を読んで、折口信夫というか釋迢空と尾崎翠はつながるのではないか?と考えはじ…

折口信夫と尾崎翠のこと その1 川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店、2010年)というスリリングな著作に感化されて、ここのところせっせと折口信夫と尾崎翠のかかわりについて調べている。 と言っても、折口信夫と尾崎翠の「かかわり」なんてものはな…

尾崎翠を神話から解放するこころみ:川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店、2010年)*1 現代の文芸評論家でもっとも信頼すべき書き手のひとりである、川崎賢子さんの待ちに待った新刊。 つねに神話がつきまとってきた尾崎翠を同時代のエコール(文芸思…

山中富美子のこと 昨年の秋に石神井書林の目録に載っていた『山中富美子詩集抄』(森開社、平成二十一年九月)を手に入れてから、何度かぱらぱらと詩篇をいくつか読んではみたものの、これまでじっくり読むということをしてこなかった。詩集は小説と違ってつ…

高祖保を読むと雪がふる 昨日から今日にかけて、小躍りするよな嬉しいできごとがあったのだけれど、ここにそれを書いてしまうと小鳥が羽根をひろげて逃げて行ってしまうような気がするので、書かないこととした。 * 今日の昼休みは書庫に籠って、佐々木靖章…

玲瓏たる雪の詩人の肖像:外村彰『念ふ鳥 詩人高祖保』(龜鳴屋、2009年) 平出隆『鳥を探しに』を読み終えてからというもの、にわかにその辺に居る鳥のたぐいでもそわそわと気になりだし、時間がある時は、鳥を見つけると歩みを止めるようになった。その辺…

ついに、刊行予告を発見.....!3/27発売予定。 川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店)*1 http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refBook=978-4-00-022405-5&Sza_id=MM 大へん待ち遠しいです。 *1:ISBN:9784000224055

扉野良人さんより『sumus』第13号をお贈りいただいた。風のたよりでは、今号の晶文社特集は大へんに話題になっているということ、ありがたきことなり。 扉野さんのエッセイは京都の名曲喫茶クンパルシータと中川六平さんにまつわるもの。 クンパルシータ、懐…

平出隆『鳥を探しに』(双葉社、2010年)*1 不思議な余韻を残す小説である。 1964年2月に七十二歳で亡くなった「左手種作」と呼ばれる著者の祖父は、ひとりの自然観察者であり、独学で五カ国語をマスターして翻訳にも携わり、また絵筆もとった。アマチュアの…

『リアン』と『詩と詩論』と『詩・現実』のこと、それから衣巻省三 内堀さんが対話の中で、『リアン』が掲げたのはシュルレアリスムは革命の芸術であり、春山行夫の『詩と詩論』はフランスのシュルレアリスムの紹介にすぎないではないか!ということをおっし…

休み時間にせっせと伊達得夫に関する文章を集めている。 真理ちゃんと百合ちゃんのお父さんの仕事はふしぎな商売でした。 詩集や詩論の本は少ししか売れず、ふつう、それは商売にはなりません。他の本を出している本屋さんとか、印刷屋をしている閑な人が、…

そうそう、そして、詩とその周辺の私的読書の最後を飾る(?)素敵なイヴェントが冬至の日の神戸でありますよ!今、いちばん刊行を楽しみにしている"Donogo-o-Tonka"の版元りいぶる・とふんの主宰で、季村敏夫と内堀弘がモダニズム詩について語る、とくれば.…

一月十六日、一月十六日:伊達得夫と岡田時彦 田中栞『書肆ユリイカの本』(青土社、2009年)とその展示とトーク・イヴェント「書肆ユリイカの本・人・場所」の余韻を引きずったまま、平出隆×扉野良人対談では「荒地」の詩人たちの話を聞き、間奈美子さん主…

透明な巨人:瀧口修造おぼえがき もうすぐ11月も終わり、真っ青な高い空にくっきり映える黄金色の銀杏が眩しい並木道を歩く日々もまもなく終わり。 必要があって*1、瀧口修造関連の本をその予習として読んでいるのだけれども、戦前から唯一シュルレアリスム…

「胡桃」と「どんぐり」:ふたつの木の実たち; 第37回西荻ブックマーク 2009年11月15日(日曜日) 平出隆×扉野良人師弟対談 座っているだけでなんとも絵になるお二人に、トークショーなんていう軽々しい言葉はどうもしっくり来ないのです。かと言って、重々…

今日のうちに記しておきたい ポレポレ東中野にて本日より岡田茉莉子の特集上映がはじまった。今日は2008年にフィルムセンターでかかったマキノ雅弘特集上映で都合で見逃していた『やくざ囃子』を観る。鶴田浩二が陽気に歌を唄いながら軽やかに人を斬ってゆく…

素敵な催しのご案内をいただきました: アトリエ空中線十周年記念展 インディペンデント・プレスの展開 Development of an Independent Press : the first decade of Atelier Kuchusen 2009年11月13日(金)〜12月6日(日) 於・ポスターハリスギャラリー h…

またしても冨士原清一のこと ある日。 まっさおさおの空の下、駒場公園で降りて日本近代文学館へゆく。文学館へ至る道に植わっている花水木の葉が赤と緑と褐色のグラデーションでとても美しくて、それを見ると何故かいつも「林檎の礼拝堂」を思い出してしま…

雨が降ったからなのかどうなのか、昨日の夕方からとつぜん金木犀の甘い香りが鼻をかすめるようになった。 月曜日、古書会館で開催中の『書肆ユリイカの本』展にゆき、奥平晃一(田村書店店主)、郡淳一郎(元・青土社『ユリイカ』編集長)、田中栞(紅梅堂)…

「神戸詩人事件」とその周辺: 足立巻一『親友記』(新潮社、1984年)*1 「神戸詩人事件」についても書きたい、とか何とかいばってはみたものの、わたしは「神戸詩人事件」について、ほとんど何も知らないのだった。唯一、わたしの教科書であるところの、中…

モダニズムいわれるのがきらいやねんけど: 季村敏夫『山上の蜘蛛 神戸モダニズムと海港都市ノート』(みずのわ出版、2009年)*1 扉野良人『ボマルツォのどんぐり』経由で、寺島珠雄『南天堂 松岡虎王麿の大正・昭和』に出逢い、内堀弘『ボン書店の幻』を読…

冨士原清一のこと: 夏の終わりに立ち寄った古書展にて購入した、鶴岡善久編『モダニズム詩集 I』(思潮社、2003年)を読んでいたら、1944年に南洋の島で戦死した冨士原清一の詩が載っていて、それがとても気に入る。何と言うか、透明できらきらしているんだ…

一千九百二十九年の"CINE"から二千九年の"Donogo-o-Tonka"へ 夏休み最後の日は、朝から国会図書館にてせっせと閲覧三昧。ブルトン、アラゴン、エリュアールなどフランスのシュールレアリスムを積極的に紹介した上田敏雄・保の『文芸耽美』、名古屋のモダニス…

何とマア美しい本!: プレス・ビブリオマーヌ『山中散生詩集 夜の噴水』(1963年) シュルレアリスムに格別の興味があるという訳ではないけれど、気になる名古屋モダニストの一人、山中散生の詩集は、久々に造本の美しさにクラクラした本.......!こういう…

日曜日、第33回西荻ブックマーク「『昔日の客』を読む〜大森・山王書房ものがたり〜」に参加する。ここだけの話(?)私小説にはさほど興味がなく、上林暁、尾崎一雄、木山捷平、野呂邦暢など名前しか知らず読んだこともない(うわーすみません......)のだ…

「アリストテレスの後裔」のこと 全集未収録のエッセイとして『詩神』(1931年7月号)に掲載されたアンケート「この人・この本」によると、尾崎翠が「会ったことで会ってみたい人」として「アリストテレスの後裔」と答えている。「アリストテレスの後裔」だ…

尾崎翠の新世紀ふたたび: KAWADE道の手帖『尾崎翠 モダンガアルの偏愛』*1(河出書房新社, 2009)を送っていただいた。木村カナさん、河出書房のSさん、どうもありがとうございます。 この本は、今年の3月に日本近代文学館で開催された尾崎翠シンポジウムが…

楽しみなこれから出る本: ・コレクション・都市モダニズム詩誌 全15巻(ゆまに書房) http://www.yumani.co.jp/np/isbn/9784843328774 『Cine』が見たいので愛知県立図書館に行くかなーと思っていたところにこれは嬉しい。 ・キネマ旬報(1927〜1940年)復…

京阪神遊覧日記その一:神戸アカデミー・バーつれづれ 二年越しで訪問を心待ちにしていた1922年創業のバー・アカデミーにようやくゆくことができた。「つたのからんだ ある ふるい」小屋という感じの、つやつやした初夏の若草色の蔦に覆われたその建物は、バ…

久生十蘭「妖術」のモデルのこと 京阪神行きの資料も読みつつ、灰色のクロス製本が美しい『定本久生十蘭全集1』(国書刊行会、2008年)*1を合い間合い間に読んでいるのだけれど、1938年に執筆された三一書房の全集未収録の「妖術」という作品が気になってい…