しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

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2010年の3(観た順、読んだ順) [小説・評論]: ・平出隆『鳥を探しに』(双葉社)(id:el-sur:20100125)*1 ・川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店)(id:el-sur:20100408)*2 ・ローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』(鳥影社)(id:el-sur:201012…

素朴な月夜:左川ちかと古賀春江 ある日、小野夕馥さんの森開社から『左川ちか全詩集』新版が届いた。初収録の作品なども多数含む待ちに待った増補改訂版である。ほとんど黒に近いマットな濃紺の紙でくるまれた装幀はとてもシックで、"夜の詩人"左川ちかにぴ…

ローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』*1(鳥影社、2010年)読了。久しぶりに小説を読んで感銘を受ける。昔、外国の小説を読んでいた頃の、久しく忘れていた胸の高鳴りを思い出す。繊細で、優美で、きらきらと波間がゆらめくような旋律が響いてくる、…

私的メモ:島本融と北園克衛 返本の時に、ふと書庫で目についた『株式会社紀伊國屋書店 創業五十年記念誌』(非売品・昭和五十二年、紀伊國屋書店)という本をぱらぱらとやったら、これはとてもおもしろそうだとピンと来てさっそく借り出してくる。収録され…

金澤一志『北園克衛の詩』(思潮社、2010年)*1 ご恵贈いただきました。ありがとうございます。 小ぶりの瀟洒な白い本は著者自装。カヴァをはずすとフランス語が躍っていてまるで洋書のような佇まいである。洗練の極みとも言うべきスタイリッシュな北園克衛…

fragile, handle with care: via wwalnuts叢書01: 平出隆『雷滴 その拾遺』*1 郵便受けを覗いてみると、百舌の切手を貼った白い封筒が届いていた。差出人住所は、"iaa at tama art university"気付になっていて、その下に銀色のペンで、平出隆氏のイニシャル…

余分の豊かさが溢れている書物:関口良雄『昔日の客』 関口良雄『昔日の客』*1が夏葉社(http://natsuhasha.com/)から復刊された。 これは一部の古本愛好家のあいだで「幻の名著」とされていた古本エッセイで、わたしは去年、出来ごころで参加した「西荻ブッ…

橋本平八から折口信夫へ、ボン書店経由で北園克衛へ いつもの東京ではなく、生誕地である三重で【異色の芸術家兄弟――橋本平八と北園克衛展】(三重県立美術館)を観たことで、いきおい郷里の風土のようなものが、兄弟の芸術にどのような影響を与えているのか…

青木繁《海の幸》、伊良子清白、モーリス・ドニ《セザンヌ礼賛》 青木繁《海の幸》をはじめて間近に観たのは、確か神奈川県立近代美術館の企画展だったような記憶があるけれど、それがいつのことだったかはもう思い出せない。とにかく「凄い絵だなあ」と思っ…

昨日は、原宿のブックカフェBibliotheque(ビブリオテック)*1主宰の、『鳥を探しに』刊行記念・平出隆トークショー「散文へのまなざし」を聞きに行く。昨年11月の「西荻ブックマーク」(id:el-sur:20091117)での扉野良人さんとの対話の中で、準備中のこの…

今週末に北参道のBibliotheque(ビブリオテック)*1なるブックカフェ――スペルはフランス語なのに、読み仮名は促音のドイツ語ふうなのが不思議といえば不思議――にて行われる、平出隆『鳥を探しに』刊行記念トークショー「散文へのまなざし」にいそいそと予約…

折口信夫と尾崎翠のこと その2 「学校の後園に、あかしやの花が咲いて、生徒らの、めりやすのしやつを脱ぐ、爽やかな五月は来た。」(釋迢空「口ぶえ」) 「口ぶえ」という小説を読んで、折口信夫というか釋迢空と尾崎翠はつながるのではないか?と考えはじ…

折口信夫と尾崎翠のこと その1 川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店、2010年)というスリリングな著作に感化されて、ここのところせっせと折口信夫と尾崎翠のかかわりについて調べている。 と言っても、折口信夫と尾崎翠の「かかわり」なんてものはな…

尾崎翠を神話から解放するこころみ:川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店、2010年)*1 現代の文芸評論家でもっとも信頼すべき書き手のひとりである、川崎賢子さんの待ちに待った新刊。 つねに神話がつきまとってきた尾崎翠を同時代のエコール(文芸思…

山中富美子のこと 昨年の秋に石神井書林の目録に載っていた『山中富美子詩集抄』(森開社、平成二十一年九月)を手に入れてから、何度かぱらぱらと詩篇をいくつか読んではみたものの、これまでじっくり読むということをしてこなかった。詩集は小説と違ってつ…

高祖保を読むと雪がふる 昨日から今日にかけて、小躍りするよな嬉しいできごとがあったのだけれど、ここにそれを書いてしまうと小鳥が羽根をひろげて逃げて行ってしまうような気がするので、書かないこととした。 * 今日の昼休みは書庫に籠って、佐々木靖章…

玲瓏たる雪の詩人の肖像:外村彰『念ふ鳥 詩人高祖保』(龜鳴屋、2009年) 平出隆『鳥を探しに』を読み終えてからというもの、にわかにその辺に居る鳥のたぐいでもそわそわと気になりだし、時間がある時は、鳥を見つけると歩みを止めるようになった。その辺…

ついに、刊行予告を発見.....!3/27発売予定。 川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店)*1 http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refBook=978-4-00-022405-5&Sza_id=MM 大へん待ち遠しいです。 *1:ISBN:9784000224055

扉野良人さんより『sumus』第13号をお贈りいただいた。風のたよりでは、今号の晶文社特集は大へんに話題になっているということ、ありがたきことなり。 扉野さんのエッセイは京都の名曲喫茶クンパルシータと中川六平さんにまつわるもの。 クンパルシータ、懐…

平出隆『鳥を探しに』(双葉社、2010年)*1 不思議な余韻を残す小説である。 1964年2月に七十二歳で亡くなった「左手種作」と呼ばれる著者の祖父は、ひとりの自然観察者であり、独学で五カ国語をマスターして翻訳にも携わり、また絵筆もとった。アマチュアの…

『リアン』と『詩と詩論』と『詩・現実』のこと、それから衣巻省三 内堀さんが対話の中で、『リアン』が掲げたのはシュルレアリスムは革命の芸術であり、春山行夫の『詩と詩論』はフランスのシュルレアリスムの紹介にすぎないではないか!ということをおっし…

休み時間にせっせと伊達得夫に関する文章を集めている。 真理ちゃんと百合ちゃんのお父さんの仕事はふしぎな商売でした。 詩集や詩論の本は少ししか売れず、ふつう、それは商売にはなりません。他の本を出している本屋さんとか、印刷屋をしている閑な人が、…

そうそう、そして、詩とその周辺の私的読書の最後を飾る(?)素敵なイヴェントが冬至の日の神戸でありますよ!今、いちばん刊行を楽しみにしている"Donogo-o-Tonka"の版元りいぶる・とふんの主宰で、季村敏夫と内堀弘がモダニズム詩について語る、とくれば.…

一月十六日、一月十六日:伊達得夫と岡田時彦 田中栞『書肆ユリイカの本』(青土社、2009年)とその展示とトーク・イヴェント「書肆ユリイカの本・人・場所」の余韻を引きずったまま、平出隆×扉野良人対談では「荒地」の詩人たちの話を聞き、間奈美子さん主…

透明な巨人:瀧口修造おぼえがき もうすぐ11月も終わり、真っ青な高い空にくっきり映える黄金色の銀杏が眩しい並木道を歩く日々もまもなく終わり。 必要があって*1、瀧口修造関連の本をその予習として読んでいるのだけれども、戦前から唯一シュルレアリスム…

「胡桃」と「どんぐり」:ふたつの木の実たち; 第37回西荻ブックマーク 2009年11月15日(日曜日) 平出隆×扉野良人師弟対談 座っているだけでなんとも絵になるお二人に、トークショーなんていう軽々しい言葉はどうもしっくり来ないのです。かと言って、重々…

今日のうちに記しておきたい ポレポレ東中野にて本日より岡田茉莉子の特集上映がはじまった。今日は2008年にフィルムセンターでかかったマキノ雅弘特集上映で都合で見逃していた『やくざ囃子』を観る。鶴田浩二が陽気に歌を唄いながら軽やかに人を斬ってゆく…

素敵な催しのご案内をいただきました: アトリエ空中線十周年記念展 インディペンデント・プレスの展開 Development of an Independent Press : the first decade of Atelier Kuchusen 2009年11月13日(金)〜12月6日(日) 於・ポスターハリスギャラリー h…

またしても冨士原清一のこと ある日。 まっさおさおの空の下、駒場公園で降りて日本近代文学館へゆく。文学館へ至る道に植わっている花水木の葉が赤と緑と褐色のグラデーションでとても美しくて、それを見ると何故かいつも「林檎の礼拝堂」を思い出してしま…

雨が降ったからなのかどうなのか、昨日の夕方からとつぜん金木犀の甘い香りが鼻をかすめるようになった。 月曜日、古書会館で開催中の『書肆ユリイカの本』展にゆき、奥平晃一(田村書店店主)、郡淳一郎(元・青土社『ユリイカ』編集長)、田中栞(紅梅堂)…