しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

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「神戸詩人事件」とその周辺: 足立巻一『親友記』(新潮社、1984年)*1 「神戸詩人事件」についても書きたい、とか何とかいばってはみたものの、わたしは「神戸詩人事件」について、ほとんど何も知らないのだった。唯一、わたしの教科書であるところの、中…

モダニズムいわれるのがきらいやねんけど: 季村敏夫『山上の蜘蛛 神戸モダニズムと海港都市ノート』(みずのわ出版、2009年)*1 扉野良人『ボマルツォのどんぐり』経由で、寺島珠雄『南天堂 松岡虎王麿の大正・昭和』に出逢い、内堀弘『ボン書店の幻』を読…

冨士原清一のこと: 夏の終わりに立ち寄った古書展にて購入した、鶴岡善久編『モダニズム詩集 I』(思潮社、2003年)を読んでいたら、1944年に南洋の島で戦死した冨士原清一の詩が載っていて、それがとても気に入る。何と言うか、透明できらきらしているんだ…

一千九百二十九年の"CINE"から二千九年の"Donogo-o-Tonka"へ 夏休み最後の日は、朝から国会図書館にてせっせと閲覧三昧。ブルトン、アラゴン、エリュアールなどフランスのシュールレアリスムを積極的に紹介した上田敏雄・保の『文芸耽美』、名古屋のモダニス…

何とマア美しい本!: プレス・ビブリオマーヌ『山中散生詩集 夜の噴水』(1963年) シュルレアリスムに格別の興味があるという訳ではないけれど、気になる名古屋モダニストの一人、山中散生の詩集は、久々に造本の美しさにクラクラした本.......!こういう…

日曜日、第33回西荻ブックマーク「『昔日の客』を読む〜大森・山王書房ものがたり〜」に参加する。ここだけの話(?)私小説にはさほど興味がなく、上林暁、尾崎一雄、木山捷平、野呂邦暢など名前しか知らず読んだこともない(うわーすみません......)のだ…

「アリストテレスの後裔」のこと 全集未収録のエッセイとして『詩神』(1931年7月号)に掲載されたアンケート「この人・この本」によると、尾崎翠が「会ったことで会ってみたい人」として「アリストテレスの後裔」と答えている。「アリストテレスの後裔」だ…

尾崎翠の新世紀ふたたび: KAWADE道の手帖『尾崎翠 モダンガアルの偏愛』*1(河出書房新社, 2009)を送っていただいた。木村カナさん、河出書房のSさん、どうもありがとうございます。 この本は、今年の3月に日本近代文学館で開催された尾崎翠シンポジウムが…

楽しみなこれから出る本: ・コレクション・都市モダニズム詩誌 全15巻(ゆまに書房) http://www.yumani.co.jp/np/isbn/9784843328774 『Cine』が見たいので愛知県立図書館に行くかなーと思っていたところにこれは嬉しい。 ・キネマ旬報(1927〜1940年)復…

京阪神遊覧日記その一:神戸アカデミー・バーつれづれ 二年越しで訪問を心待ちにしていた1922年創業のバー・アカデミーにようやくゆくことができた。「つたのからんだ ある ふるい」小屋という感じの、つやつやした初夏の若草色の蔦に覆われたその建物は、バ…

久生十蘭「妖術」のモデルのこと 京阪神行きの資料も読みつつ、灰色のクロス製本が美しい『定本久生十蘭全集1』(国書刊行会、2008年)*1を合い間合い間に読んでいるのだけれど、1938年に執筆された三一書房の全集未収録の「妖術」という作品が気になってい…

HE COMES FROM KOBE 尾崎翠作品の初出誌を半日書庫に籠って色々調べていた時に、『新科学的文藝』に掲載されていた稲垣足穂の級友・衣巻省三の神戸に関するエッセイがちょいと素敵だったのでコピーしておいたのを今になって引っ張り出してみる。ええ、何故っ…

雄松堂が出版しているマイクロフィッシュ版『精選近代文芸雑誌集』シリーズ(http://yushodo.co.jp/micro/kensaku/zassi/zassi-mok2.html)は、「あ、この人がこんなところに」とか「あら、この人にこんな一面が!」などと閲覧しはじめると幾ら時間があって…

モダン都市・名古屋とその周辺 昨年末から楽しみにしていた"Donogo-o-Tonka"『ドノゴトンカ』0号(創刊準備号)(りいぶる・とふん、2008年)をとある方のご好意でいち早く手に入れてからというもの、またしても西のモダニズムがにわかに気になり出して、居…

[murmur]

遊覧日記 散歩日和の土曜日、目白駅からバスに乗って講談社野間記念館にて「講談社の「出版文化資料」展」を観る。1925年に創刊されて爆発的な人気を呼んだ『キング』の表紙をしみじみ眺めながら「これがあの美しいプラトン社の雑誌『女性』や『苦楽』を廃刊…

雁来紅の赤と山中貞雄 加藤泰『映画監督 山中貞雄』*1を読んでいたら、『キネマ旬報』(1939年(昭和14年)9月11日号)に掲載された小津安二郎による山中貞雄の追悼文「雁来紅の記」が引用されており、それを読んではっとする。 山中に召集令状が来たのは暑…

モダン都市・函館周遊 その2 横浜や神戸などもそうだが、ここ函館も坂の多い街だ。港街と呼ばれるような場所は皆そうなのだろうか。そうして、だいたい山の上に外国人の旧居留地があったり、洋館や教会が立ち並んでいたりする。横浜の山の手、神戸の北野、函…

海野弘『久生十蘭『魔都』『十字街』解読』(右文書院、2008年)*1 久生十蘭の都市小説『魔都』と『十字街』を読み解きながら「東京とパリの1930年代を旅する」という本。海野弘は都市論を書く時しばしばそうなのだけれども、自らが都市漫歩者となってその時…

『春寒』(探偵小説のこと、渡辺温君のこと)(『新青年』昭和五年四月号) .....茶色のチョッキに背広を着て、黒いヴガボンドネクタイを結び、髪を長く伸ばしている姿はいつもに変わらぬ渡辺君であった。元来故人は至って無口の方だけれども、それがただの…

神戸モダニズム周遊 気になる神戸モダニズム、という訳で、安水稔和『竹中郁 詩人さんの声』(編集工房ノア、2004年)を読んでいるのだけれど、文中で四番目の詩集『象牙海岸』(昭和七年)に収録されているシネポエム「ラグビイ」を引いていて、副題のとこ…

衣巻省三『詩集 足風琴』(ボン書店、昭和九年) ボン書店で刊行された本を読んでみたいと思って図書館で借りてきた。英パンが死んだ年の夏に刊行された本。著者の衣巻省三は稲垣足穂の級友だったそう。竹中郁もそうだけれど、気になるなあ、神戸モダニズム…

Her Little Red Book 南天堂繋がりで内堀弘『石神井書林日録』(晶文社)を読んで、もう何年も前から読もうかどうかつらつら考えてそのままになってしまっていた『ボン書店の幻 モダニズム出版社の光と影』(白地社、1992年)*1をようやくここへ来て読む。後…

南天堂つれづれ 四月の終わりに、森まゆみ『断髪のモダンガール』と扉野良人『ボマルツォのどんぐり』を立て続けに読んでいたら、白山上の南天堂のことが出てきたので、ああ、そうだった、南天堂!といつものパタンでにわかに気になり出して、それからほどな…

University of Hawaii Press*1より、松竹蒲田(1920-1936)の映画について書かれたという何と言う画期的な本!もーう、日本の映画研究者の皆さん、先越されてますよ、とか、ついまたいらんことを言いたくなってしまうような、個人的には待ってましたッ!なモ…

平山亜佐子『20世紀破天荒セレブーありえないほど楽しい女の人生カタログ』*1(国書刊行会) 友人の、いつもお洒落で「素敵な美人」*2にして「掛け値なしのモダンガール」*3であるところの平山亜佐子さん(id:achaco)の著作をお送りいただいた(どうもあり…

本日の英パン発見セツ先生も英パン贔屓: 長沢節『セツの100本立映画館』(草思社、1985年) 林長二郎から岡田時彦へ小学生たちが美剣士、林長二郎派と沢田清派の二つの派閥に分かれていたのを思い出す。私は長二郎派だったが沢田清もキライではなかった。 …

本日の英パン発見 平野威馬雄『銀座の詩情1』(白川書院、昭和四十一年) 岡田時彦より三歳年上の平野威馬雄が書いた銀座の本を読んでいたら、英パン発見となったのでメモ。平野威馬雄も英パンと同じ、逗子開成中学出身だったんだなあ。序文を石黒敬七が書…

森まゆみ『断髪のモダンガール 42人の大正快女伝』*1(文藝春秋) 去年から何かと気になるささきふさが取り上げられていると知って、発売日を楽しみにしていた本。ささきふさは、長谷川時雨と『女人芸術』を創刊し、また、アナーキズム系婦人誌『婦人戦線』…

NHKのETV特集『神聖喜劇再び 〜作家・大西巨人の闘い〜』を見た。大西巨人『神聖喜劇』を読んだのはもうかれこれ8年も前(!)のことだけれど、未だにあの圧倒的な読書体験を思い出すたびにふつふつと感動が蘇ってくる。 →「私家版日本十大小説」(id:el-sur:…

<追記・3/16> 普段、ここにお見えにならないような方々にまでぞくぞくと訪問していただいているようで「なんだか」という感じではありますが、まあ、でも自ら進んで言い出したことなのでちょっと補足を。何も岡田時彦の魅力に中野翠が疑問を投げかけたから…