しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


衣巻省三『詩集 足風琴』(ボン書店、昭和九年)



ボン書店で刊行された本を読んでみたいと思って図書館で借りてきた。英パンが死んだ年の夏に刊行された本。

著者の衣巻省三稲垣足穂の級友だったそう。竹中郁もそうだけれど、気になるなあ、神戸モダニズム。竹中郁といえば、英パンも小津安二郎も通っていたという布引町のアカデミーバーに何としてでも行かねば!なのだけれど未だ果たせていない.....と、のっけから脱線気味なので元に戻して、さて、この『詩集 足風琴』である。



クリーム色の表紙に朱赤の文字で中央部分に「足風琴」と右から書かれており、両脇には同じ朱赤の細いラインが縦に入っている。まるでひと昔前のPresses universitaires de FranceやLibrairie Drozか何かフランスのペーパーバックそのもののような装丁。それもそのはず、内堀弘『ボン書店の幻』によると、鳥羽茂はパリのLibrairie Stockが出していた"Les Contemporaines"(現代叢書)を造本のお手本としていたのだという。タイトル頁の文字はややくすんだ薄いエメラルドグリンで縦に「足風琴」と書かれている。奥付の手前の頁には、同じくエメラルドグリンで「初版二六〇冊の内 A版ー和紙刷上製ー八〇冊 B版ー地券紙刷並製ー一八〇冊」とあり、奥付は「詩集 足風琴 A版 定価七十銭 著作者 衣巻省三 刊行者 鳥羽茂 刊行所 ボン書店」となっている。じっと見入ると活字がところどころ踊っているかのように曲がって嵌め込んであるのがどことなくユーモラスな雰囲気で、やはり人の手が感じられる活版印刷はしみじみ美しいと思う。もう日本では絶滅寸前だけれど.....。



何と言っても最初に驚くのは、この本の軽いこと軽いこと!わずか40頁の詩集ということ鑑みても、ぺらぺらのペーパーバックではなく、きちんと背付きのれっきとしたハードカヴァなのに、である。ターキーこと水の江瀧子嬢が本こそ違えどボン書店から出版された真っ赤な函入りの詩集・渡辺修三ペリカン嶋』を小脇に抱えて銀座のペーヴメントを闊歩していたというエピソードを思い出してなるほどと納得する。ボン書店の本は華奢な女の子が小脇に抱えてアクセサリーのようにして持ち歩くにぴったりの軽くて小さくて洒落た本だったのだ。



気に入った詩のなかからいくつか。


詩法
君は手でインキ壷からミユウズをひねくりだす。僕はわが足で
それを奏でる。こは予の試作に於ける春秋の筆法である。


統計
白はめまひのセンチメンタル。黒はずるいや。柄ものカモフラ
アジユ。縞は御随意におまかせするが、白がすりの楚々たる少
女はまろびません。


はゝ猫
睡つてゐた猫がちらと眼をあけて鳴きました。そしてまたすぐ
睡入つてしまひました。この猫はみごもつてゐるのです。猫は
夢にまだ産れない仔を呼んだのでせう?風の強い夜です。