しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


いそいそと早起きしてシネマヴェーラにて清水宏『銀河』(1931年)を観る。



サイレントなのに188分て!な、長ーい。だもんで、途中何度か睡魔に襲われて物語の筋を見失ってしまったところもあったけれど、菊池寛ばりのメロドラマで堪能しました。火の燃え盛るお屋敷に「道子さん!」と叫びながら飛び込んでいって顔を煤だらけにしながら助け出し「僕はあなたを愛していました...」とつぶやいて八雲恵美子の腕の中でがっくり首を垂れる高田稔っていう、昼ドラもまっ青なコテコテのメロドラマ。ちなみに、冒頭のスキーのシーンは小津安二郎成瀬巳喜男が揃って応援演出しているとのこと。ちょい役で出ている伊達里子が働くチャブ屋の壁なんて素晴らしくモダン!豹のようにしなやかなジョセフィン・ベイカーが飛び出してきそうだし、まるでカッサンドルのポスターのようにも見える。川崎弘子の勤めるカフェーでは、少女歌劇のレヴューらしきものも観られるので興味深いけれど、本でしか知らなかった少女歌劇ってあんな感じのものだったんだ.....どう贔屓目に見ても目の細い白塗りの少女たちは寸胴でまったくそそられないのだけれど(笑)。



タイトルのフォントが、同時期に同じ映画会社で作られているから当たり前なのだろうけれど、小津のサイレント作品と同じなのでそんなことがにんまりと嬉しい。主演は岡田時彦の親友・高田稔と英パンが『東京の合唱』(1931年)で共演した八雲恵美子に斉藤達雄、同じく英パンが『淑女と髯』(1931年)で共演した川崎弘子とあっては、岡田時彦ファンとしてこれを見逃す訳には行かず、モーニングショーでしかも三時間という長丁場にやや怯むものもあったけど、えい、これは観ておくのよ!との気合いで駆けつける。



高田稔は眉間に皺を寄せた時の陰鬱な表情からすっとした高い鼻にかけてのラインは惚れ惚れするほど美形なのだけれど、頬が少し痩けているのと口元がやや貧相なところが「惜しい」という感じで、我が愛しの岡田時彦には敵わないよなあ、やっぱり英パンが一番!と思いながら観ていたのだった、ってこれ完全に好みの問題かもですが....。八雲恵美子は見目麗しい気位の高いゴージャスなお嬢様役はぴったりだったけど、川崎弘子のやや白目がちでふわふわのマシュマロ兎みたいに天真爛漫な笑顔が愛らしくて、小津の『淑女と髯』にて「私、岡島さんの恋人です!」と不良モダンガールの伊達里子に笑顔で言い切るシーンを思いだして、何となくかの女のファンになってしまう。



脇を固める俳優陣もまた良い。特に、英パンと同じく早死にしてしまった毛利輝夫の扮する世をすねたような貴族趣味の兄(ポマードで撫付けた髪とチョビ髭の似合うこと!それに彼は目も落ちくぼんでいるのが何処となく西洋風でまるでルビッチの映画に出てくる俳優のような容貌)は、物凄くハマり役のようで、ああいう冷めた感じの役ができる俳優として、毛利輝夫はとても貴重だったのではないか知らと思う。わずか3年間という短い期間しか映画に出ていないのがとても残念。



それに、いつも素晴らしい斉藤達雄が、毛利輝夫の友人として最後まで八雲恵美子を見守る心優しき文士役でこれまた素晴らしい。斉藤達雄は主役で出演しているよりも脇役で出ている時の方が数倍素晴らしく思えるのだけれど。斉藤達雄が出てくるだけで何だかそのシーンに可笑しみが感じられて思わずフッと笑ってしまう。斉藤達雄は何故かいつも眼鏡は左右ズレていて、髪には寝癖がついているっていうイメージなのだけれど気のせいか知ら。