しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

市川崑 『足にさはった女』(東宝、1952年)


それが阿部豊監督による1926年作品(我が愛しの岡田時彦が主演している!)のリメイクだから、ということでフィルムセンターでかかっている「シリーズ・日本の撮影監督2」のチラシにマル印を付けた作品。


流麗なペンを走らせたような白抜きのクレジット、女性のほっそり・すらりとしたナイロンストッキングに包まれた美しい脚をクローズアップするカットが次々と映し出されるタイトルバックからして、素晴らしくスタイリッシュ。そこに被さるのは楽団ブルーコーツによるごきげんなビッグバンド・ジャズ!まったくもって洒落てて、ああ、藤本真澄東宝だなあ、と思う。


という訳で、のっけから「これは素敵な映画に違いない」という確信が湧いてくるようでわくわくしながら観る。


顔が小さくて手足の長い、それでもって、その長い手足でかなりオーヴァー・リアクション気味にじたばたするのが、どことなく、ジャン=ピエール・レオーのアントワーヌ・ドワネルを思い起こさせる(そういえば、トリュフォーも脚!脚!脚!な人だったわね)池部良の軟派な魅力がぴったりと作品にマッチ。最初のシーンからして、池部良と上司とで口角泡飛ばすやり取りの、あまりのスピード感に面喰らってついてゆけないほど。ここのシーンは、和製『ヒズ・ガール・フライデー』(ハワード・ホークス)だよなあ、とか言ったらちょっと褒め過ぎか知ら。


「パーマの出来が気に入らないと10日も文句を言う」お洒落スリ役の越路吹雪の洋服がとにかくスタイリッシュ。水玉柄のケープのようなマントを羽織り、小ぶりのボックス型のバッグを抱え、黒レースのベールのついた帽子を被り、すらりとしたスタイルのよい脚を惜しげもなく露にするから、世の男性どもはみなその魅力にあてられっぱなしでドキドキ。折り返した袖がアクセントになっている真っ白なブラウスに、サテンのようにも見える、光沢のある生地のフレアスカートはドレープがたっぷりで見目麗しい。


「永遠のライバル」とも思える、「追う」刑事の池部良と「追われる」スリの越路吹雪が、心の底ではお互い惚れ合っているのに、くっつきそうでくっつかないのがいい。弟分役の伊藤雄之助の、ピントがはずれたようでいて、でも観ているところは観ているという、とぼけた存在感もすごくいい。山村聡の、何故か小指を立てておねえ言葉を喋る小説家「坂々安古」(安吾じゃありません、安古(あんこ)です、だって!バカねえ)の俗物振りも可笑しすぎる。脇を固めるのも芸達者ばかりで、沢村貞子にしても、加東大介にしても、三好榮子にしても、岡田茉莉子にしても、藤原釜足にしても、ほとんどちょい役なのに、どの俳優もそれぞれにぴりりと効いてるのが素晴らしい。この辺の手腕はこの前観た渋谷実なんかに比べると市川崑の方が随分と上手いなあと思う。


台詞も洒落ていて、脚本も上手いし、スピード感もある、音楽もいい。そして何より、お洒落で洗練されている!わたしなんぞよりも、断然観て欲しい、そしてきっとキャーと言うに違いないお友達の顔が何人も思い浮かんだ映画。存分に楽しみました。