しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


「1930年代・東京」展(http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/1930/index.html


日曜日、東京都庭園美術館にて、前から楽しみにしていた「1930年代・東京」展へ行く。一等はじめに大好きな長谷川利行《地下鉄ストアー》(1932年)が展示されていてわくわくと胸が躍る、だったのですが、まあ終わってみればちょっと不完全燃焼な展示ではありました。後半は皇族関係のものばかりで、ちょっと手前味噌というか、手抜きというか、工夫がないというか。もう少し色んな美術館から借りてきて欲しかった。実際の展示を観てはいないけれど、1988年に東京都美術館山口県立美術館、兵庫県立美術館で共同企画された「1920年代・日本」展の図録のヴォリュームを見てしまうと、やっぱりちょっと手抜き感は否めない、というか。そうは言っても、庭園美術館はあの建物自体が美術品だし狭いしなので仕方がないといえば仕方がないのですが.....それでも、やはり、ううーん、という感じ。1930年代・東京といえば、日頃から興味を持って追いかけているので仕方がないことなのかもしれないけれど、写真の部屋などは、ほとんどすべて見たことがあるものばかりであった。とはいえ、これまた大好きな鈴木信太郎の画や、ダンスホールを描いた木村荘八の画や、永代橋を描いたのほほんとした日本画などは嬉しく見た。それから、去年、近代美術館で観ていっぺんに好きになった小泉癸巳男の部屋も嬉しく見た。以前、八王子の夢美術館で観た時は気付かなかったのだけれども、鈴木信太郎の《東京の空(数寄屋橋附近)》(1931年)で浮かんでるアド・バルーンには何と、溝口健二の傾向映画の一本『しかも彼等は行く』(日活太秦、1931年)のタイトルが見えて「おお!」となる。画集や何やらで何度となくこの画を見てきたのに、今までまったく気付かなかった......。そのあと、久しぶりの利庵にて穴子せいろを食べたら、今しがたの展示への不満も何処へやら、すっかり上機嫌になって目黒を後にする。結局、芸術より美味しいもの、なのであった、嫌ねえ。


その前の日の土曜日、東京国立近代美術館フィルムセンターhttp://www.momat.go.jp/FC/fc.html)にて、伊藤大輔『お六櫛』(第一映画、1935年)を観た。これはたぶん伊藤大輔の作品としては凡作に入る映画だろうと思っていたけれど、月田一郎と山田五十鈴が共演している数少ない現存作品?という興味から鑑賞した。岡田時彦とのからみで言えば、月田一郎は優男ふうの二枚目で「第二の岡田時彦」と言われていたことがあるそうだし、伊藤大輔も英パンの死後、「(月田一郎を)岡田時彦くらいには育ててやる」という趣旨のことを言っていたそうで、まあ、個人的にそんな興味もあって、月田一郎のトーキーでの演技を観たのだけれど......。えーと、月田一郎はまず声が悪すぎた。この声でトーキーは辛いよなあ、と途中からなんだか気の毒なほどの声の悪さで、それで主役の二人(月田一郎と歌川絹枝)が表情を含めかなり演劇ふうの大仰な芝居をするので、悲劇なのに喜劇に転化してしまっているような滑稽な印象を受けた。誤ってサイレントの意識のままトーキーを撮ってしまっているかのような感じ。山田五十鈴の雪女郎は美しかったし、彼女の白魚のような手でそっと雪の上に置かれたお六櫛を捉えたショットは綺麗だったけれども。