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しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

メモ:カフカがローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』について書いている。

アイスナー取締役宛

プラハ、おそらく1909年]

親愛なるアイスナー様、御恵送ありがとうございます。
私の専門の勉強は、いずれにしてもはかばかしくありません。
ヴァルザーが私を知っていますとか。私は彼を知りません、『ヤーコプ・フォン・グンテン』は存じています、いい本です。他の本は読んでいませんが、いく分かはあなたの責任です、私がすすめたのに、『タナーきょうだい』を買おうとなさらなかったのですから。ジーモンというのが、たしか、あの『きょうだい』に出てくる男です。彼は、とっぷりと仕合せに浸りながら、いたるところをほっつき歩いていて、結局彼からは、読者の満足感のほかはなにも残らないのじゃありませんか。これはじつにつたない経歴です、けれども、つたない経歴だけが、世界に光を与える、その光を、完璧ではないけれども結構いい作家だといえるこの人が、生み出そうとしているのです、


ただ残念なのは、すべてを犠牲にしても、というそのやり方です。むろんこうした人たちも、外観からいえば、いくらでもそこらあたりをほっつき歩いているにちがいない、なんなら、当然のこと小生をふくめて、幾人かを数え上げてお目にかけることもできましょう、しかし彼らは、ほかでもない、かなりによい小説にみられるあの光の作用のために、ぬきんでているのです。


これは、ひとつ前の世代から、すこしばかりゆっくりと歩み出てきた人たちです、すべての人間が一様に規則正しい跳躍をして、時代の規則正しい跳躍に従うようにと、要求することはできないのです-------(以下略)

『決定版カフカ全集 9 手紙1902−1924』(吉田仙太郎訳、新潮社、1981年)より