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しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

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アリストテレスの後裔」のこと


全集未収録のエッセイとして『詩神』(1931年7月号)に掲載されたアンケート「この人・この本」によると、尾崎翠が「会ったことで会ってみたい人」として「アリストテレスの後裔」と答えている。「アリストテレスの後裔」だって?と考える『新青年』好きのわたしとしては、どうしても「これは渡辺温の「アンドロギュノスの裔」(1929年8月号)の間違いではないか?」と思いたくなるのであって、現にカナさんから何度かこのアンケートの話を聞いていたので、今回あらためて尾崎翠渡辺温というふたりの活動写真狂モダニストの共通点についてつらつらと思い巡らしたりしたのですが(あの三五郎のボヘミアンネクタイは渡辺温のそれだったのかなあ、とか)、おお、誠に残念なことに、この「アリストテレスの後裔」は翠の勘違いではなく、れっきとした中村正常の戯曲(改造社の新鋭文学叢書『隕石の寝床』所収、1930年)なのであった.....!


という訳で、さっそく翠のお気に入りだという「アリストテレスの後裔」を読まんとすべく『隕石の寝床』を図書館で借りて読んでみたけれど......うーん、ことば遊びと月の世界と尺取り虫が登場するくらいで、当時にありがちな「ナンセンスもの」という感想しか持てなかったなあ。パン吉とピンコ、プンコ、ペンコ、ポン吉ですって。これだったら久生十蘭『ノンシャラン道中記』のタヌとコン吉のほうがよほど素晴らしい、って十蘭と比べては気の毒か........。