しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

今日もフィルムセンターにて川島雄三『洲崎パラダイス 赤信号』(1956年)『銀座二十四帖』(1955年)を観る。『洲崎パラダイス』は噂で大へん混んでいると聞いていたので早めに行って、その前に大好きな利休庵にでも寄ってお蕎麦を食べてからと思い、小雨降りしきる中わざわざ銀座通りを和光の方に戻りながらお店に行ってみたのですが、あれ!?利休庵が取り壊されている....。トラックに積み上げられているのは灰色の瓦礫の山....嘘、大ショック!うちに帰って急いで調べてみたら今年の3月末で閉店だったんですね...寂しすぎる。何時でも一人でふらっと立ち寄れて好物の蕎麦が食べられるというので、フィルムセンターで映画を観た帰りには必ずといって良い程、ガラガラと音のする戸を開けるのも嬉しく、あの藍色の暖簾をくぐっていたのに。それにしても、何ヶ月ものあいだ何故気づかなかったんだろうと思ったら、4月から6月の半ばまではちょうど今村昌平黒木和雄特集だったので丸々2ヶ月フィルムセンター通いを止めていたからであった。あーあ、せめて閉店前にもう一度あの暖簾をくぐりたかった...あそこのおかめ蕎麦がとりわけ大好きだったのに。これからフィルムセンターの帰りにいったい何処で小腹を満たせばよいのか!?、というくらい個人的にショック。ああ、また大好きなお店が一つ無くなった。



さて、映画。『洲崎パラダイス 赤信号』は新珠三千代の見目麗しい着物姿がたくさん出てきて素晴らしい。美人で衣紋を抜いた首すじも「ほっそり」としてて(これ重要)足の「ほっそり」している(これ又重要)女性が着物の裾から白いふくらはぎと長襦袢を露にしながら小股で走る、というのが個人的にかなり好きで、新珠三千代のそれが今回大変綺麗であったのでにんまり、ってオヤジみたいですが....でも着物姿の日本の女性はやっぱり美しい、漂う色気が違う。これは新珠三千代の美しい着物姿に惚れ惚れする映画。ストーリーの方は、全く男って生き物はどうしようもない程の駄目さ加減だし(三橋達也のうじうじした煮え切らなさったら!観ていてキーとなる、というよりあまりに程度が酷いので苦笑)、だけれども、女もまたそのどうしようもない駄目な男を捨てることができない(そういうのを可愛いと思ってしまったり、「やっぱり私がいないとあの人は駄目になる」とか思っちゃうのね、バカよねえ、女も)から、結局、男も女も持ちつ持たれつお互いの存在なしではいられない、またしても勝鬨橋の上で風に吹かれながら文無し宿無し生活に逆戻り、それでも人生はつづく、みたいな根源的な男女の関係を描いているという趣きだった。途中、新珠三千代が不甲斐ない三橋達也に愛想を尽かして小金持ちの「神田のラジオ屋」の男の元に行ってしまうのだけれど、その相手というのが河津清三郎で「あ、大政だ!」*1なのであった。大政、こんなところに出ていたのかーと嬉しい再会。



二本目『銀座二十四帖』はストーリーはやや面白みに欠けるし、ちょっと長くて途中ダレるといった感じだけれど、それでも森繁久彌の妙味のある唄とナレーションが素晴らしく、50年代当時の銀座の街並をすっかり堪能できるのが嬉しく、ブティックが立ち並ぶみゆき通りや(ジュリアン・ソレルなんていう名前の店もある)、三愛に至るまでの銀座通り(森永製菓ーこれはキャンディストアだったかしら?やスエヒロ、ワシントン靴店に大黒屋などの店先が見える)の様子も観ているだけでわくわくする。これは銀座という都市を描いた映画なのだ、と思えば、その意味ではとても面白い映画だと思う。あと、三橋達也演じるコニィのお花屋さんの店先に"Say it with flowers"っていう言葉が書いてあって、月丘夢路(そういえば岸恵子に似ているなあと今日思った)や浅丘ルリ子(まだおちびちゃんで可愛い)が幾度となく劇中でこの言葉を口にするのだけれど、"Say it with flowers"と聞いて、まっさきに思い出してしまうのがカーターUSM(これ'91かあ...遠い目)ってところが、もうお里が知れるって感じでちょっぴり泣きたくなった、ってここ笑うとこですけれど!

*1:マキノ雅弘次郎長三国志』シリーズが好きすぎるので、つい役名で呼びたくなる。