しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


忙しい.....とぼやきつつも、神保町シアターにて、島耕二『東京のヒロイン』(新東宝、1950年)を観る。


今回のフィルムは、短縮版というかなり不完全なもので、お世辞にも画質がよいとは言えない代物であった。とは言え、監督の島耕二は、何しろ俳優時代に英パンと組んで日活モダン現代劇の立役者こと阿部豊の『足にさはった女』(1926年)に出演しているので、それだけで気になる存在なのである。そして、岩本憲児+佐伯知紀編 『聞書き キネマの青春』(1988年)によると、島耕二は30年代に杉狂児らと共にその名も「日活アクターズバンド」なるアマチュア・バンドを結成していたこともあるから、戦後だってモダンが染み付いているに違いないという変な確信もあって、この作品は観に行こうと前々から手帖に丸をつけていた。『東京のヒロイン』だなんて、まるで北村小松の通俗小説のタイトルみたい(こちらは『東京のお嬢さん』だったっけか)だし、しかもこの映画、美術は河野鷹思に、音楽は服部良一!ですから、極私的にはどうしても観なければならない一本、とか何とか勝手にいつもの調子で思い込む。


『東京のヒロイン』は、エルンスト・ルビッチばりのスクリューボール・コメディを撮ろうとして、努力したけどここまでだった(笑)という感じ。でもそのショボさと鈍くささが戦後日本映画もハリウッド目指して頑張ってます!という感じで微笑ましい。小道具のハンチングの使い方もなかなか上手いし、階段の撮り方なども、これはハリウッド映画のお勉強をしているなーと思う。30年代後半から40年代はじめの、もう少しほっそりした若い頃の轟夕起子が演じていたらもっとスピーディーで軽やかなものに仕上がっていたかも。そういえば、島耕二はその後も『アスファルト・ガール』(1964年)というモダンで色彩豊かで洒落たミュージカルを大映で撮っているのね。この映画のファーストシーンもそういえば舗道をゆく女性の脚、脚、脚だったような気がする。ところどころ、これはスラップスティック・コメディから来た人だ、と思わせるようなシーンがあり、そのあたりは興味深かったのと、あとは、1950年代東京の風俗を観るのが愉しい、というくらいの他愛ない映画。彰国社の「建築写真文庫」シリーズにでも出てきそうな、アルチュール・ランボーなんていう素敵なバアが映るのも嬉しい。思わず百合子さんと泰淳を思い出してしまう、っていうか、まさかあの「ランボオ」と同じだったりして....!?