しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

金曜日、アテネフランセにて成瀬巳喜男『君と別れて』『夜ごとの夢』(松竹蒲田、1933年)を観る。




『君と別れて』については、2月の金井美恵子井口奈己トークショーの時にもその名前があがっていて(id:el-sur:20080201)いつかきっと観たいナアと思っていたのを、うきうきとジャン・ルノワールマキノ雅弘に小躍りしていた頃に「映画の授業」でかかる!と知ってたいへん楽しみにしていたのだった。



とは言うものの、その日は寒いし、雨だし、気圧が低いしで偏頭痛までしてくるのでどうも体調もすぐれず、二本とも至極ぼんやりとした感じ(っていつもか.....)で鑑賞したので曖昧な印象しか語れないのだけれども、どちらの作品を観ても思うのは「ああ、成瀬巳喜男はサイレントの頃からずっと女性の映画を撮ってきたんだなあ」という、成瀬について語る時に誰もが口にするような言葉で、そんな面白くもない感想しか出て来ない己の駄目さ加減にややうんざりはしたものの、そんな下らないことはさておいて、やはり成瀬巳喜男は素晴らしい。



『君と別れて』は水久保澄子の映画だし、『夜ごとの夢』は栗島すみ子の映画なのだけれども、そのどちらの映画においても、女主人公に対する成瀬のまなざしは優しく温かい。大人しく、控え目だったために、蒲田撮影所では城戸四郎の気に入られず失意の中P.C.L.に移籍したという話は有名だけれども、そんな成瀬の人となりが映画からしみじみ伝わってくるような作品だったのが嬉しかった。『君と別れて』については大きなお目目の愛らしい水久保澄子や中年芸者の悲哀を演じた吉川満子はよかったけれども、義男役の磯野秋雄がちょっとなあ(笑)という感じが少々残念だったのと、『夜ごとの夢』については、トラックアップの多用がややくどいというきらいはあるにしても。『君と別れて』では列車のシーンで「明治ミルクチョコレート」が映し出されるのを見るにつけても、前年に同じ成瀬と水久保澄子コンビで撮られた『チョコレートガール』(1932年)が見てみたかったナアと思う。『夜ごとの夢』では怪我をした子供を入院させる費用を調達するために斎藤達雄が強盗を働くシーンがあり、なかなか活劇的魅力に溢れているのだけれども、もちろん岡田時彦ファンとしては思い出すのは小津の『その夜の妻』(1930年)で、機会があれば二本を見比べてみたいなどと思ったのだった。



それにしても、『夜ごとの夢』というタイトルはどういうことなのだろう、栗島すみ子に突きつけられた現実はあまりにも厳しいものなのに。いや、彼女はこれからもきっと強く生きてゆくのだろう、『浪華悲歌』や『祇園の姉妹』の山田五十鈴のように。