しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

柏倉康夫『マラルメ探し』(青土社、1992年)よりメモ:

「私はこの桁外れな作品を見た最初の人間であると信じています。マラルメはこれを書き終えるとすぐ私に来訪を求め、私をローマ街の居室へと招じ入れたのでした。......彼は黒ずんだ、四角な、捩じれ脚のテーブルの上へ詩稿を並べると、低い、抑揚のない声で、いささかの《効果》もねらわずに、ほとんど自分自身に語るかのように読み始めました......
 ......自作の『骰子一擲』をはなはだ平板に読み終わったマラルメは、ついにその字配りを私に示しました。私は一つの思想の外貌が初めて我われの空間内に置かれるのを見る気がしました......そこでは紙片の上に、最後の星辰の不思議な燦めきが、意識の隙間に限りなく清くふるえており、しかも、その同じ虚空には、一種の新しい物質のように、高くまた細長く、また系列的に配置されて言葉が共存していたのです!
 この類例のない定置法は私を茫然自失させました。全体が私を魅惑しました。......この知的創作を前にして、私は感嘆と、抵抗と、熱烈な興味と、まさに生まれようとする類推との複合体になっていました。」(ポール・ヴァレリー『骰子一擲』プレイヤード版全集第一巻、p.623〜624)