しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

十月

「......彼の家の傍には、大きな樹々の並木道がございました。そこを端から端まで、往ったり来たり逍遥しながら、彼は幾時間もの間、自分の孤独極まりない身の上を思い続けたり、遐かなくさぐさの存在が、その暗がりの不気味な深みの中に、まだ何か、希望と愛との光を自分のために取りおいてくれているのかどうかが知りたくて、〈未来〉に向って訊ねたりしていました。彼の記憶に最も遠い或る年の荒涼とした十月のこと、こうした孤独な散策をしていますうち、星の時計は既に暁を物語っていましたが、そのとき彼は、東の地平線に、希望と愛との三日月様の星である金星が、さし昇り、獅子座の星々の中に入るのを見たのでした。」(マラルメ訳『エドガー・ポー詩集』[訳者による] 評釈 松室三郎訳)