しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


デトレフ・ジールク(ダグラス・サーク)『思ひ出の曲』(1936年、ウーファ)!!



愛らしすぎて、幸福すぎて、一体全体こんな夢見るように幸せな映画が存在していいのでしょうか?と思ってしまうくらい、素晴らしくすてきな映画。そして、この感じは、そうだ、間違いなくジャン・ルノワールの映画を観た時の感覚と一緒じゃない!と気付いたら、もうあとは頬を緩ませっぱなしのひたすらに幸福な85分間であった。ドイツ時代の作品はこれ一本しか観ていないにもかかわらず、ダグラス・サークよりデトルフ・ジールクが断然好きだ!とやや熱に浮かされたことを口走りそうになるくらい。


冒頭の指揮者と支配人と殿下が登場するシーンからして、すべてが素晴らしい予感に満ち満ちていて、これは間違いなくわたし好みだ、とピンと来たのだけれど、向日葵みたいに輝く笑顔を振りまきながら鈴のように軽やかな唄声を聞かせる歌姫クリスティーヌがフォルクスガルテンで大きなブランコに乗るシーンで、もう完璧にハートを鷲掴みにされてノックアウト、これはジャン・ルノワール『ピクニック』(1936年)ではないか!彼女の大写しの笑顔がシルヴィア・バタイユのそれともう完璧に交錯しながら見えてくるようで、めくるめく輪舞にも似たくらくらする程の幸福感に心底酔いしれる。何故って、ジャン・ルノワール『ピクニック』こそが、たぶん今まで観た映画の中でわたしの一番好きな作品だから。そう思って(思い込んで)しまったら、クリスティーヌが日傘をくるくる回しながら柳の植わった水辺を散歩するシーンを見ても、何となく『水の娘』を思い出したりして一人でそわそわと興奮。


まるで音楽のように聞こえるドレスの衣擦れの音、白い可愛らしい靴に柔らかな脚を滑り込ませるシーン、その流れるようなテンポと洗練の極致のような滑らかなつなぎにじっと見入りながらただひたすらため息。


ああ、もう本当に思い出すだけで幸せな気持ちになるような素敵な映画だった.....!


入場待ちの時、ロビーで山田宏一さんをお見かけして、敬愛を込めて心の中で会釈をした。家に帰って感動冷めやらぬ中、色々と『思ひ出の曲』について調べていたら、山田宏一さんの「生涯の一本は『思ひ出の曲』('36)(たぶん)」と書いてあるプロフィールを見つけて「おお!」と嬉しくなる。