しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


映画メモ:


神保町シアターにて、市川崑『穴』『プーサン』を観た。『穴』(1957年)はほとんど京マチ子の独り舞台であった。山村聡はシリアスな役どころの時(『山の音』『舞姫』『女優須磨子の恋』など)はあまり好きではないが、こういうコメディに出ると(『足にさわった女』のインチキ小説家坂々安古、『河口』の敏腕画商マネージャー役など)とてもいいと思う。船越英二演じる犯人が窓ガラスに飛び込んで自殺してしまうラストシーンは、これニコラス・レイ『暗黒街の女』じゃない、と思ってうちへ帰ってimdbを見たら『暗黒街の女』は1958年の作品で『穴』の方が一年早かったのだった。次から次へと事件が起こるサスペンスコメディでなかなか楽しいけれど、個人的には『足にさわった女』の方が出来がいいと思った。そして、『足にさわった女』も川島雄三の才気迸る傑作喜劇『貸間あり』と比べてしまうと落ちるかもなあ、と思う。市川崑を観ながら川島雄三の突き抜けた面白さを思い出す。『貸間あり』は凄すぎる。



『プーサン』(1953年)、越路吹雪と三好栄子の掛け合いが素晴らしい+うだつの上がらない藤原釜足。三好栄子と言えば、しつこいようですが、押し売りの殿山泰司は包丁もって追い払ってしまうし、杉村春子にお小言されても一向に動じない、小津安二郎『お早よう』のおばあちゃん役が大好きで、越路吹雪と言えば、マキノ雅弘次郎長三国志 第六部 旅がらす次郎長一家』の義理人情に厚いしっかり者の女房、お園役が一番好き。事あるごとにいそいそと押切権現様にお参りするシーンの、その立ち振る舞いとしぐさの目をみはるような素晴らしさ!マキノの映画を観ていると、特に時代劇ものにおける女優の独特の「しな」の見せ方が凄く上手くて、歩き方やしぐさ一つとっても、指先にまで神経が行き届いているといった感じで惚れ惚れしてしまう。これはマキノが父の映画で俳優をやっていたからこそできる演技指導の賜物なのかしら?『プーサン』は戦後の話なのに、画面がひたすらに貧しいという印象でまるで戦中か戦争直後みたいな雰囲気だった。戦中に撮られたマキノ正博『ハナコさん』(1943年)の画面の方がよっぽど豊かな気がした。というか、マキノの映画だから豊かに見えるのだろうか?