しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

book

詩集を遺さなかった詩人・増田篤夫のこと 「透明な世界に於ては、凡てが秩序である。秩序は自由である」(三富朽葉) 青木重雄『青春と冒険 神戸の生んだモダニストたち』(中外書房、1959年)は、モダン都市・神戸のもっともよき時代を小松清・竹中郁・稲垣…

清岡さんのこと 『アイデア』No.354を何度も眺めていたら、K氏のことを思いだした。そうしたら、何となく原口統三のことを思いだしたので、ふと思い立って、読みさしのままになっていた、清岡卓行『海の瞳 原口統三を求めて』(文藝春秋、1971年)を読んでみ…

旅の親密なスーヴニール:『瀧口修造1958 旅する眼差し』(慶應義塾大学出版会、 2009年) *1刊行当時からいつか手に取ってみたいなと思っていたこの本(箱?)をようやくじっくり読む(見る)機会を与えられた。 1958年、瀧口修造はヴェネツィア・ビエンナ…

多田智満子を読む ふと気になって手に取った多田智満子の詩があんまり素敵なので驚いている。「多田智満子」の名前は、マルグリット・ユルスナールの翻訳者としては届いていたけれど、詩篇はほとんど読んだことがなかった。おお、わたしはいつも遅すぎる。 …

光の束、緑の層 小さな緑色の石を受け取ってから、青山ブックセンターへ。『本の島』発刊記念ということで、吉増剛造×堀江敏幸のトークイベントがあり、それを聴きに行った。昨年の秋に知り合ったばかりというのに、どこか懐かしい感じのするnさんとのつなが…

FOOTNOTE PHOTOS 02『アクテルデイク探訪』 http://www.wwalnuts.jp/vww/11/ 1. 十時半、というのだから、午前中のことである。けれども、フロントグラスをへだてて映しだされる空は靄がかり、湿り気を帯びた粒子が肌に纏わってゆくように見える。灰緑色と水…

今日は、せっかくの土曜日だというのに冷たい雨が降っているので、大人しく家のなかに居ることとなった。ふと思い立って、"The World of Donald Evans"から、戯れに"Stein"の章を試訳してみたりしたので、ちょっと載せてみます。 "Stein" スタインは、ベルギ…

北村初雄から吉田一穂へ、吉田一穂から三富朽葉へ この二月は東京も凍てつくような寒い日が続いたので、吉田一穂を読むにはうってつけといった感覚があった。「知性の力で極限まで表現を研ぎ澄ました〈極北の詩〉を理想とする〈孤高の詩人〉」(岩波文庫『吉…

北村初雄と「海港」派のこと 扉野良人さんが中務秀子さん主宰のリトルマガジン『DECO・CHAT』のコラムに書いていたのを読んで、大正時代の横浜に「海港」派と呼ばれた詩人たちがいたことを知った。外交官だった柳澤健、山名文夫と親しかった熊田精華、そして…

年が明けてもう十日も経つけれど、わたし(たち)はまだ心のどこかで、昨年11月の対談「小沢書店をめぐって」の余韻に浸っているようだ。トークのなかで長谷川郁夫さんがちらと言及されていた「叢書エパーヴ」や「エディシオン・エパーヴ」のことが引っ掛か…

2011年の3+5(読んだ順・観た順) [小説・評論] ・デボラ・ソロモン『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』(白水社)(id:el-sur:20110308)*1 ・山田稔『日本の小説を読む』(編集グループSURE)*2 ・ローベルト・ヴァルザー『助手』(鳥影社)(id:el-…

ローベルト・ヴァルザー作品集2『助手』(鳥影社、2011年)*1を読み終える。 玄関のベルを鳴らしドアを開けて「宵の明星館」に入っていった若者ヨーゼフ・マルティは、最終頁でスーツケースを地面から拾い上げると人生の落伍者ヴィアジヒとともに館を出てゆ…

『ぽかん』02号が来た!貸本喫茶ちょうちょぼっこのメンバーの一人、真治彩さんの個人誌『ぽかん』02号*1が届く。美しい記念切手がたくさん貼られたうす茶の包みを郵便受けに見つけておおいに喜ぶ。これこれ、待ってたわーという感じ。山田稔さんが名付け親…

「小沢書店をめぐって」のことなど この初夏、文学好きのあいだで話題となった、流水書房青山店でのブックフェア「小沢書店の影を求めて」。わたしも噂を聞きつけていそいそと二度も見に行き*1、瀟洒な目録を含めその徹底した仕事ぶりに大いに驚嘆して帰って…

原子朗編『大手拓次詩集』(岩波文庫、1991年)を読む。うっとりするような、きれいな日本語。薔薇や香料をモティーフにした詩がたくさんある。「とび色の歌」「言葉の香気」「指の群」「日食する燕は明暗へ急ぐ」「鋏で切りとつた風景」などの散文詩もとて…

机上の灯台 ノウゼンカズラの杏色の花は落下し、百日紅と芙蓉はまだたくさん咲いている。この前見たときはまだムラサキシキブの小さな実は色づいていなかったのに、今日はもうだいぶ薄紫色に変わっていた。 まっさおさおな高い空なので、日傘くるくるまわし…

われらの獲物は一滴の光:詩集『雷滴』平出隆*1 颱風の余波で風が荒れ狂っているのでおとなしく蟄居していた週末の日、郵便配達夫が透明なかごにくるまれた、じつに著者「二十四年ぶり」の新詩集『雷滴』を届けてくれた。 玉虫の翅のように美しい布張りの函…

闇のなかの微光:北村太郎つれづれ 北村太郎の好きだったドリス・デイの"Sentimental Journey"、わたしの好きなヴァージョンはHarpers Bizarreが唄った1968年録音のもの(訳は適当です)。 Gonna take a sentimental journey Gonna set my mind at ease Gonn…

ドナルド・エヴァンズを探しに 来月下旬にアムステルダムに行けることになったので、平出隆『葉書でドナルド・エヴァンズに』*1(作品社、2001年)と"Stamps from the World of Donald Evans"(雅陶堂ギャラリー、1984年)とWilly Eisenhart "The World of D…

石原輝雄『三條廣道辺り 戦前京都の詩人たち』(銀紙書房、2011年) マン・レイ・イスト氏こと石原輝雄さん(id:manrayist)より上梓されたばかりの本を一冊分けていただいた。前々から出来を愉しみに待っていた一冊である。正式な発売日はまだにもかかわら…

水晶のように透明(クリスタル・クリア):キャサリン・マンスフィールド 書かない時間があまりに長かったので、ここに何を書いていいのかよく判らなくなってしまった。こういう時は引用に限ります(?)。時間があるので、昔読んだ本を気まぐれに読み返すと…

流水書房青山店にて「小沢書店の影を求めて」の棚を見る 小沢書店の本はないけれど、小沢書店の世界があるっていったいどんなだろう?と、読書好きの方たちのあいだで話題になっているので気になっていた。 うちの本棚にはぽつぽつとしか小沢書店の本は並ん…

『別れの手続き 山田稔散文選』(みすず書房、2011年)*1を読む 親切な方がみすずの山田稔さんの新刊が出ましたね、と教えてくれたので、そうだった、忘れとった、そうだった、とさっそく本屋に行って買ってきて、休日の午后をつかってすっかり全部読んでし…

マックス・ブロート宛 [プラナー、消印 1922.7.5].......なんと脆弱な地盤、というよりまるで存在もしない地盤のうえに僕は生きていることか。足の下は暗闇だ。そして暗い力がそこから、みずからの意志で生まれ出て、僕が口ごもる言葉なぞ歯牙にもかけず僕の…

メモ:カフカがローベルト・ヴァルザー『タンナー兄弟姉妹』について書いている。 アイスナー取締役宛[プラハ、おそらく1909年]親愛なるアイスナー様、御恵送ありがとうございます。 私の専門の勉強は、いずれにしてもはかばかしくありません。 ヴァルザー…

心が穏やかでない日がつづくので、毛布をすっぽりかむり暗がりで鼻のあたまをひいやりとさせながら、東塔堂(http://totodo.jp/)で購入した、ドナルド・エヴァンズの画集"The World of Donald Evans"(text by Willy Eisenhart : Amsterdam : Bert Bakker, 1…

庭師コーネルの魔法の手:『ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア』 ジョゼフ・コーネルの創造する箱という名の小さなうつわに漠然と惹かれつづけてきた。幻想の標本函、夢の記憶装置。瞬間を封じ込めた永遠に在り続ける宇宙――。 デボラ・ソロモン著/林寿…

美術と詩 多摩美術大学主宰の連続講座第29回「美術と詩―ライン、ストローク、想像力、物質」(講師:平出隆)を聴講するため、上野毛キャンパスへゆく。 詩における「ライン=行」と美術における筆はこび「ストローク」。行為のあり方として両者はよく似てい…

『マダム・ブランシュ』つれづれ:酒井正平と「小さな時間」 あまりに日があいてしまったので日記の書き方を忘れてしまった.....!いやはや。 メモしておきたいと思っていてまだ書いていなかったこと。図書館にて朝も早よから『MADAME BLANCHE』(マダム・ブ…

頌春お正月休みも今日で終わり。ほんとうは、お休み中に課題図書(おお!)であるところの、土肥美夫『ドイツ表現主義の芸術』(岩波書店、1991年)を読み進めて、腕まくりしながら橋本平八の二十年代研究に取り組みたいと思っていたのだけれども、半分瞼が…