しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

白倉敬彦さん

白倉敬彦さんが亡くなられたとのこと。先月、ブログに「白倉敬彦 逝去」で検索してきた人がいて、おかしいな、と思っていたのだけれど、Wikipediaにも何も書かれていなかったので、きっと誤報だろうと思っていた。ひと月も前に亡くなられていたのだ。笠間書院のブログでそのことを知った。

昨日、東京国立近代美術館で《菱田春草展》を観た帰りに、2階の小展示《美術と印刷物―1960-70年代を中心に》も覗いてきて、エディシオン・エパーヴは、そうか、わたしの生まれた年に設立されたのだな、とあらためて確認したところだった。展示されていた清水徹の添え書きの色もレモンイエローだったことを確認して、これはきっと『瀧口修造の詩的実験』の添え書きから来ているのだな、と考えたりした。エパーヴの『これは本ではない』がわたしの誕生日に刊行されているのも勝手に嬉しくてそんな些細なことも気に掛かった。白倉さんが綴った『夢の漂流物』(みすず書房)には心底引き込まれた。ひといきに読んで感嘆のため息とともに本を閉じた。瀧口修造という精神的な父を据え、長男・宮川淳、次男・豊崎光一、三男・白倉敬彦という疑似家族を形成していた70年代の奇跡のような「透明な気圏」を眺めてみたかったとつくづく思った。これで瀧口を巡る「透明な気圏」を象っていた三星はみな消えてしまった。その最後の星である白倉敬彦さんには、いつかエパーヴについてお話を伺いたいと思っていたのに。