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しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

たいへんなことになっている、と書いてゆくそばから、文字がさらさらと細かい砂粒となって形をとどめないような心地がしている。ここちあし。もう揺れてもいないのにずっと揺れているような船酔いのような気分で、電話の警告音のたびに心臓を掴まれ、ふとするとすぐに天井から吊り下がっている黒塗りの琺瑯の電灯笠を見つめてしまう自分がいる。


わたしは無力、わたしは無力なのだから、灯りひとつで部屋の真ん中で本を読むことしかできない。ふさぎの虫に取り憑かれる。白秋の日本語の豊かで温かな繭にくるまれたいと願う。そうそう、ふさぎの虫と言えば、翠の耳鳴りと一緒に出掛ける話も。通勤電車の窓から水母のようなかたちをした雲が層になって浮かんでいるのが見える。柔毛に覆われて淡緑がかった灰色のこぶしの蕾は日に日にふくらんでいる。乳白色の花弁を覗かせているのもある。


今朝、黒と白の仔猫が毬のようにして路地から走ってきてわたしの前を横切った。ただそれだけのことなのにこわばった身体が緩むのが判る。