しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

オリヴェイラ『アニキ・ボボ』(1942年)は瑞々しい傑作だった


フィルムセンターにて、マノエル・ド・オリヴェイラ『アニキ・ボボ』(1942年)を観る。『ドウロ河』(今回は来ないんだわ残念)『カニバイシュ』と並んで、長いあいだ観る日を待ち望んでいた一本。いや、よかった。素敵な映画だった。陽光の降りそそぐ港町ポルトのきらめき。少女が蠱惑的なまなざしで、やや小首をかしげながらバスケットを抱え、急勾配の石畳の階段をとんとんと飛び跳ねるようにして降りてくる。そこに木漏れ日がグレイの影をかたどって。瑞々しいことこの上ない。やはりオリヴェイラは最初からオリヴェイラだったのだな。もっとも、この長編第一作では、まだあの人を煙に巻くような「オリヴェイラ節」は影を潜めているのだけれども。ここのところ映画からとんと離れていてすっかり感覚を忘れていたのだけれど、ああ、これだ、この感じ、スクリーンの闇に身をひたしていると、だんだんに映画を観る感覚を思い出してきた。


『アニキ・ボボ』のファーストシーン、さっそくそこに蒸気機関車が写し出されるので、大好きな『アブラハム渓谷』(id:el-sur:20070416)のはじまりを思い起こしてにやにや。列車ではじまる映画っていいよなあとうっとりしていると、少女の悲鳴が重なって......。


小さな火の玉みたいに走って跳んで跳ねて、めちゃくちゃに往来をゆく子どもというものは、どこの国でもまったく同じだ。車道に車が行き交っていようとおかまいなしに、狭いあいだを縫って横断する。今夏に神保町シアターで観た成瀬巳喜男『秋立ちぬ』で、銀座を遊び場にする少年たちをすぐさま思い出してにんまり。


少年たちがあたふた・どたばたと学校に登校してきて、一丁前にかむってきた帽子を順に帽子掛に掛けてゆくのを、後ろからフィックスで撮っている、その何とリズミカルなこと!どの子も生意気な足取りが可愛らしくて思わずにんまりしてしまう。帽子掛けに帽子がずらっと並んでいると、すぐに小津安二郎サイレント映画を思い出してしまうのは、自分でもいかがなものかと思うけれど....。まったく関係がないのにね。


それにしても、子どもが肩を組んだりして(この場合、背の小さいのが大きいのに腕をまわすほうがユーモラス)大声でわあわあ言いながら、仔犬がもつれるように走って跳ねて歌っているという光景にはやっぱり弱い。もう観ているだけで、いいな、いいな、と思ってしまう自分がいる。半ズボンの悪ガキどもが「豆なんか見たくもない!」と叫びながら、大人にレジスタンスを試みる、これまた大好きなジャン・ヴィゴの『新学期・操行ゼロ』を思い出したり。映画を観るのはやっぱり楽しい。