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しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

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神保町シアターにて、成瀬巳喜男『晩菊』(1954年、東宝)をようやく観ることができた。素晴らしかった......!今まで観た成瀬作品はせいぜい二十本くらいだけれど、これはもしかすると『流れる』と並ぶマイ・ベストかも.....。杉村春子先生や沢村貞子が上手いのはまあいつものことなので判るとして、細川ちか子と望月優子の掛け合いがもう素晴らしくて。まるでこの二人が主役なのではないかと思える程だ。細川ちか子と言えば、まず思い出すのは野島康三が30年代に撮ったポートレートだし、成瀬作品では『乙女ごころ三人姉妹』や『妻よ薔薇のように』などがあるけれど、彼女は若い頃よりくたびれた中年女役の頃の方が断然いいなあと思う。


成瀬作品の魅力のひとつは細部の描き方だと思うけれど、この作品でも画面の隅々に細やかな気配りが感じ取れて、うーん、凄い、さすが小道具係出身の監督だからか(?)芸が細かい!と思う。路地裏で繰り返し聞こえてくる「カチ、カチ、カチ」という印象的な音の使い方、動物や子供の動かし方、光や雨の写し方、カットの繋ぎのテンポの良さや流麗さなど、ひたすら細部に目を凝らす悦びを与えてくれる。そして、それはそのまま映画を観る喜びでもある。


小津映画(の何本か)のようにそこに聖なる人は不在だし、市井の俗側の人ばかりを描いているにもかかわらず、成瀬作品が放つ品の良さは、いったい何処からくるのだろう?


ラスト近くのシーンで、細川ちか子と望月優子が、出稼ぎにゆく細川ちか子の息子(『次郎長三国志』の追分三五郎!)を乗せた列車を見送る橋の上で演じてみせる最後の掛け合いの、その笑顔とユーモアとに、成瀬の温かなまなざしが感じられてじーんと感動する。