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しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


何とマア美しい本!:
プレス・ビブリオマーヌ『山中散生詩集 夜の噴水』(1963年)


シュルレアリスムに格別の興味があるという訳ではないけれど、気になる名古屋モダニストの一人、山中散生の詩集は、久々に造本の美しさにクラクラした本.......!こういう本がぽんと読めてしまう、今の境遇の幸運さに天を仰ぐ。こういう本があるから、わたしにとって書庫はまるで宝の山に思える。最近は書庫で調べものをしていればそれで満ち足りた気持ちになる、というくらいになってしまっていて、それはそれで大いに問題なのだけれども。「映画館の幕の上や図書館の机の上の世界の方が住み心地が宜しい」(尾崎翠『こほろぎ嬢』)とか言い出さないように注意したい昨今。


さて、わたしの与太話はともかく、この美しい詩集の造本はこんなぐあい。

限定 一七五部(内頒布可能部数一三五部前後)ー尚番号は活字色刷ー

サイズ 23×12.5cm(珍しい縦長本)

装本 全册フランス装(異装本を作らず)・天金(純金)

本文 新鋳五号組

用紙 越前産特漉耳付局紙

表紙画 川勝広慶

カット サルヴァドォル・ダリ肉筆画より(三点ー色刷)

別葉 著者サイン・カード。二色刷大判エキス・リブリス。著者年表。

表紙は特殊印刷によるコロタイプ印刷で、これはボン書店の鳥羽茂による造本でもそうであった。川勝広慶による表紙画は陰影で描かれた若きカトリーヌ・ドヌーブ?似の女性の肖像で、輪郭がすり硝子のように霞がかかったふうになっているのがやさしい和紙の質感と相俟って大へん美しい。文字の部分は写植並に純金箔押で、指で触れると表面に窪みが感じられるのもうっとり。プレス・ビブリオマーヌ主宰の佐々木桔梗による別刷の「ご案内」(生成色の薄い薄い和紙!)には「瀟酒且つ贅沢な世にも美しい書物であり、それは奇蹟的な誕生といっても過言ではないと思います。」という装本への自負が伺える文章が記してあるのも納得の出来映えである。山中散生の作品では他に『列車詩集』(1980年)も閲覧することができたのだけれども、これなぞ表紙に原色刷でカッサンドルの「北極星」の美しいポスターが嵌め込まれている.....!余白にマットな水色で描かれたカットは北園克衛によるもの。もうため息が出そうだ。



そういえば、それで思い出したけれど、今年の七夕古書大入札会に出品されていた、山中散生や左川ちかや安西冬衛が参加している詩誌"ETOILE DE MER"(海盤車)はどこが落札したのだろう?この雑誌は慶應義塾にも日本近代文学館にも所蔵がないし、手元の澤正宏・和田博文編『日本のシュールレアリスム』(世界思想社、1995年)にも掲載されておらず、今年ゆまに書房から刊行開始された(おお!素晴らしい)『コレクション・都市モダニズム詩誌 全15巻』にも記述がない。年代的には『Cine』(1929-1930)と『Ecole de Tokio』(1936-1937)のあいだに入るべき詩誌なので、うーん、気になるなあと思っているのだけれども。