しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


映画覚え書き:ボリス・バルネット『青い青い海』(1935年)


水曜日、アテネ・フランセにて、ずっと長いあいだ見逃し続けていたボリス・バルネット『青い青い海』(1935年)をようやく観る。洗練から遠く離れた『ジュールとジム』もしくは『冒険者たち』あるいは『生活の設計』または『果てなき船路』。ロシア映画には他の欧米映画にない民俗的な力強さが画面のここかしこに露呈している。さすがゲルマンやメドヴェトキンやカネフスキーを生んでしまう国だ。久々にこの物凄い匙加減に圧倒されてタジタジとなるが、映画全体に生きる力が満ちあふれているのが素晴らしい。合成はともかくスローモーション(!)の使い方が斬新で面白い。エキゾチックな旋律の音楽と相俟って、いったいこれはいつの時代の映画なんだ?と思ってしまう。糸の切れた首飾りの玉がはらはらと船床にこぼれ落ちるシーンが美しい。ヒロインのマーシャが取り立てて可愛くないのも、いかにも共産主義のお国の映画ぽくてよろし。


それはそうと、背の低い成人男性はなぜ男同士で肩を組むのだろうか?


バルネットは傑作の譽れ高い『帽子箱を持った少女』(1927年)ではなく、何故か『トルブナヤの家』(1928年)の方を観たことがあるのだけれど、これもアパートの階段のシーンなどサイレント映画の愉しさに満ち満ちていて大へん面白かったなあということを何年かぶりに思い出した。