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しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

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日曜日、第33回西荻ブックマーク「『昔日の客』を読む〜大森・山王書房ものがたり〜」に参加する。ここだけの話(?)私小説にはさほど興味がなく、上林暁尾崎一雄木山捷平野呂邦暢など名前しか知らず読んだこともない(うわーすみません......)のだけれど、山王書房関口良雄さんの名前は内堀弘さんの『石神井書林日録』(晶文社)で読んでいたのと、確かdaily-sumusで見た『関口良雄さんを憶う』という饅頭本の表紙が妙に気になっていたのとで、何となくだけれども、うっすらと覚えていたのだった。


それで、近所だし、まあ参加してみるかー、くらいの軽い気持ちで居たのを、そうは言っても『昔日の客』くらいは事前に読んでおこうと思って図書館で借りてきて読んだのだけれど、


一読驚嘆した。


程よく抑制の利いた文章は、しみじみといつまでも余韻が残る。滋味豊かでよい文章のお手本のよう。こざっぱりと飾り気がなく、きっちり推敲に推敲を重ねて選ばれた言葉には一本筋が通っている。そして何より本と文学と文学者に対する深い敬愛の念が文章のすみずみから漂ってくる。それがもう本好きには泣けるのである。夕焼けが空を赤々と染める日には店番を子供に任せて駆け出して行く、好きな作家以外は興味がないから三島由紀夫が初版本に署名を申し出たところで「どちらでもいいよ」となる、そしてそのまま値札を張り替えずにまた書棚に戻してしまう。この本から垣間見えてくる店主・関口良雄(ぱっと見若い頃の後藤明生に似ている)の人柄が何とも言えずチャーミングなのである。


わたしは浅学のため店主が敬愛する作家の本をほとんど知らない。タイトルに惹かれて尾崎一雄の『暢気眼鏡』を岩波文庫で読んだことがあるくらいだ。けれど、そんなわたしが読んでもこの本『昔日の客』は素晴らしい。通勤途中の電車の中で危うく涙しそうになること数回、内堀弘さんの「『昔日の客』は大好きな一冊で、もう何度読んだかわからない。」の言葉に導かれてふいに出来ごころで読んでみただけであったが、噂に違わぬ素晴らしい本だった。


そして、関口良雄の息子さんである関口直人氏がもう本当にそよ風のようにさわやかな方(!)で、お父さまの人柄が偲ばれるなあ、とじーんと感動する。品がよくて声がよくて歌が上手な素敵なおじさま、いっぺんにファンになってしまう(ミーハー)。そんな関口直人さんの口から直接、関口良雄山王書房についてのお話を聞けたことがまことに得難い機会であった。こんな素敵な企画をしてくれた西荻ブックマークの皆さんに心から敬礼いたします。


『昔日の客』、いつか文庫になるといいですね。