しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


その前の日の土曜日、東京国立近代美術館フィルムセンターhttp://www.momat.go.jp/FC/fc.html)にて、伊藤大輔『お六櫛』(第一映画、1935年)を観た。これはたぶん伊藤大輔の作品としては凡作に入る映画だろうと思っていたけれど、月田一郎と山田五十鈴が共演している数少ない現存作品?という興味から鑑賞した。岡田時彦とのからみで言えば、月田一郎は優男ふうの二枚目で「第二の岡田時彦」と言われていたことがあるそうだし、伊藤大輔も英パンの死後、「(月田一郎を)岡田時彦くらいには育ててやる」という趣旨のことを言っていたそうで、まあ、個人的にそんな興味もあって、月田一郎のトーキーでの演技を観たのだけれど......。えーと、月田一郎はまず声が悪すぎた。この声でトーキーは辛いよなあ、と途中からなんだか気の毒なほどの声の悪さで、それで主役の二人(月田一郎と歌川絹枝)が表情を含めかなり演劇ふうの大仰な芝居をするので、悲劇なのに喜劇に転化してしまっているような滑稽な印象を受けた。誤ってサイレントの意識のままトーキーを撮ってしまっているかのような感じ。山田五十鈴の雪女郎は美しかったし、彼女の白魚のような手でそっと雪の上に置かれたお六櫛を捉えたショットは綺麗だったけれども。