しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


マキノ祭りだった京都映画祭(冨田美香先生のお話,聞きたかった!)にも行けず、フィルムセンター「大河内伝次郎伊藤大輔」特集の『忠次旅日記』は風邪による体調不良で見逃し、あのビクトル・エリセが推薦した(!)というホセ・ルイス・ゲリンシルビアのいる街で』はチケットを入手できず、ないない尽くしでしょんぼりな日々を過ごしているのですが、今日はようやっと『長恨』(1926年、日活大将軍)『御誂次郎吉格子』(1931年、日活太秦)を無事に鑑賞することができてほっとする、って別にそんな強迫観念に取り憑かれるようなことではないのだけれど.....。ああ、それにしても、言っても詮無いですが、ホセ・ルイス・ゲリンシルビアのいる街で』は観たかった。この前久しぶりにビクトル・エリセをスクリーンで観る機会があって、『エル・スール』はやっぱり何度観ても素晴らしいなあ、とじーんとしていたところで、勢い余ってついうっかりLinda Ehrlich編集の"An Open Window: The Cinema of Victor Erice"(Scarecrow Press, 2000)なんていう分厚い本まで借りてきてしまって、今、少しずつ読んでいるところなのだけれど、なんと本書所収の論文でホセ・ルイス・ゲリンについても言及がされているではないですか。しかも、1990年に撮った映画のタイトルが『イニスフリー』って(!)物凄いストレートなジョン・フォードへのオマージュで、思わず大好きなバリー・フィッツジェラルド扮する「ミケリーン」を思い出してにんまり、とか何とかでタイミング的にはぴったりだったのだし、返す返すも残念なり。運良く観られた方々が羨ましい....。



伊藤大輔とは今までどうも相性が悪く、というよりも、単に剣劇映画が苦手なだけかもしれないけれど、前に活動倶楽部の無声映画鑑賞会でビデオ鑑賞した『長恨』も『斬人斬馬剣』も半分くらい寝てしまった経験があったので、今回はサイレントではなく、澤登翠さんの活弁と柳下美恵さんのピアノ伴奏が入る回をわざわざ観に行った。うーん、伊藤大輔はスクリーンで観ないと!と思う。(わたしが今まで観た)他の日本映画では観たことがないような斬新なカメラワーク、好きか嫌いかは別にして圧倒的な迫力がある。伏見直江・信子姉妹が観られるのが嬉しい『御誂次郎吉格子』もなかなか良かったけれど、部分しか残っていない『長恨』は迸る激情!って感じのダイナミズムが画面に溢れていて凄かった。畳み掛けるようなカット・バックがすこぶる劇的で冴え渡っていたように思う。半分白目を剥いた大河内伝次郎は顔がいかついから大きくダイナミックな動きが実によく似合う。でも、こういう剣劇映画の正統とも言うべきお手本のような作品を観ると、いかに山中貞雄の作品が当時の時代劇の正統からずれていたかが判っておもしろい。