しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

日仏学院で開催中の「ジャック・リヴェット・レトロスペクティヴ」(http://www.institut.jp/agenda/festival.php?fest_id=40)にて、ジャック・リヴェット『パリはわれらのもの』(Paris nous appartient, 1960)。行く前から家人に「これ日本未公開だから10時に行ったらもうチケット完売してるかもよ」などと脅されたため、そりゃ大変だと早起きして家事諸々大急ぎで片付けて日仏に駆け込んだのだけれど、なーんだ、行ったらたった10人くらいしか並んでいなくて拍子抜けする。英語字幕で140分は正直キツいものがあって、しかも途中、早起きがたたって三度ほど睡魔に襲われてしまったために、満足に筋も追えず、誰がフィリップでジェラルドなのかも後半に差し掛かるまで覚束ない有様(うわー駄目じゃん)で、せっかく早起きして備えたというのに、しょうもない映画鑑賞となってしまってため息ばかり。その中から拾ったいくつかの印象的な断片、カフェでゴダールが新聞紙に"you're adorable"とかって書いてナンパしているところ、ジャン=クロード・ブリアリがちょい役で出ていたこと、パリの屋根が何度も映し出されているところ。あとは、主人公のアンヌがヒールの靴で床をコツコツ踏み鳴らしながらアパートの部屋のドアばかり開けているといった印象で、じりじりと差し迫るアンヌの焦燥感に反応するかのように、開けても開けても終わることのない部屋の、まるで迷路にはまり込んでしまったかのような不穏な空気が画面を満たしていた。うちへ帰って最近何故か手元に置いてよく参照しているジョナス・メカス『メカスの映画日記』を見てみたら、この作品はきちんと褒められていて、つくづく己の語学力と教養のなさと眠気とを恨むこととなったのだった。もう一度ちゃんと日本語字幕で観たいなあ.....。


言っておくが、『パリはわれらのもの』はすばらしい映画だ。ヌーヴェル・ヴァーグのうちでは、おそらくもっとも知的な映画であろう。この映画は他のいかなる映画、いかなる本よりもすばらしく、1962年のヨーロッパの心を伝えている。行って見て欲しい。この素材に対するこの監督の精通の仕方はずばぬけている。三回でも四回でも行って見てほしい。この映画があなたを動かすまでーーそしてこう叫ぶまで、「ああ、なんとすばらしい映画だろう。批評家なんて馬鹿なものだ」(11月15日 ヴァーモントで映画を探し歩いた p.76)