しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

強風の吹きすさぶ土曜日、東京国立近代美術館フィルムセンターhttp://www.momat.go.jp/fc.html)にて、マキノ雅弘浮雲日記』(東宝、1952年)『離婚』(新東宝、1952年)を観る。



浮雲日記』
主人公の重光彰の喋り方を見ていて何故か早稲田の斎藤佑樹投手のそれを思い出した。声の感じが似ているんだよな。モソモソしたおよそ鋭いとは言えないセリフ回しを一見して、こりゃ大根だな!と思ったけれど、そういう俳優でも上手く使ってそれなりに撮ってしまうのが、これぞマキノマジック!という感じで、この作品でも存分に冴え渡っていたように思う。藤原釜足も我が贔屓のバイプレイヤーで「あ、またここにも出てる!」と嬉しい。伯爵のバカなご子息役で我が贔屓の田中春男が出ていて、こちらもにんまりだったけれど、彼の登場シーンでいきなり会場にどっと笑いが起こったのが可笑しく嬉しかった。マキノを観にきているお客さんは、みんな田中春男が好きなんだなあ、きっと。法印は最高だものね。若山セツ子のやや場違いなシーンでの「いやん」も可愛すぎる!マキノの映画は本当にベタなので時々見ているこちらが恥ずかしくなってしまうことが多々あるけれど、きっと純粋にこんな可愛らしい女性が好きだったんだなあというのが判って、その人となりが透けて見えるようで微笑ましい。



『離婚』
最近何かと話題の(←自分の中で)木暮実千代が「溝口健二『雪夫人絵図』さながら」(フィルムセンターのチラシ解説より)なのと、美術を河野鷹思が手がけているというので、これは手帖に大きく丸を付けていた作品。木暮実千代はそっと長い睫毛を伏せてうつむくのがとてもよく似合う女優だと思う。お蝶さん(飯田蝶子)はじめ、斎藤達雄江川宇礼雄佐分利信木暮実千代など松竹蒲田大船でおなじみのいつもの面子と、英パンと日活時代を共にした杉狂児英百合子次郎長三国志シリーズの田中春男や田坂潤が勢揃いしているのも何とも嬉しい。最初の方にちらと映る「貞淑女学院」(バカげた名前)のレンガ造りの門は『エノケンの青春酔虎伝』と同じくまたしても我が母校のものではないか?と思ったのだけれど、どうなんだろう。それにしても、大正活映時代に英パンと横浜で一緒だった江川宇礼雄と蒲田時代に何度も共演して仲が良かった斎藤達雄の老け役というか中年役を観ると、岡田時彦がもしこの時代まで生きていたら、どんな中年役になっただろうなあ?とまたしても英パンにしみじみ思いを馳せる。渋い二枚目になったかな、それとも、杉狂児斎藤達雄のようにコミカルな演技が冴える名傍役になったかな。出ているのは芸達者ばかりだったけれど、この映画では杉狂児の軽薄でイエスマンな叔父さん役がピカ一であった。この人もサイレントから活躍していたというのがよく判る。セリフ回しや顔の表情やしぐさなどが絶妙で、英パンとも同い年で仲良しだった「杉の狂ちゃん」はやはり演技がうまいのである。



木暮実千代佐分利信が雪山の傾斜をスキーで滑ってゆくのをカメラが俯瞰する。スキーのシーンが出てくる映画と言えば、いっとう最初に思い出すのは、小津安二郎『学生ロマンス 若き日』(1929年)で、その次に思い出すのは、清水宏『銀河』(1931年)なのは、およそ偏って松竹蒲田映画が好きすぎるわたしの嗜好なのだけれど。そして、「河野鷹思」という名前を目にすれば、やはり英パンと斎藤達雄の新米新聞記者コンビがネタを探して1930年のモダン都市・東京の街角を縦横無尽に駆け巡る(と、勝手に想像)小津の『お嬢さん』(1930年)がどうしても観たいなあと思ってしまう、ってわたしはいつも同じことばかり喋っていますね。