しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

マキノ正博『世紀は笑ふ』(日活多摩川、1941年)



土曜日の映画鑑賞メモ。
監督がマキノで広沢虎造杉狂児(この方も我が贔屓のバイプレーヤー)が主演で脚本は小国英雄でおもしろくない訳がないのであーる!という確信に満ち満ちて、今日もはよから東京国立近代美術館フィルムセンターへ。テイチクが音楽協力しているらしく、冒頭から、戦前ジャズの名曲『キューバの豆売り』『君恋し』『モン・パリ』などのフレーズが次から次へとメドレーされて個人的には「あ、この曲!」「キャ、これも!」と嬉しい限り。初代天勝本人*1も登場する手品ショーでは杉狂児轟夕起子とのデュエットでなかなか素敵なジャズソングを披露してくれるのだけれど、杉狂児は1930年代に島耕二らとその名も「日活アクターズバンド」(ちなみに、日活ほど盛んではなかったものの、松竹にもジャズバンドがあって、こちらには関時男や月田一郎などが加入していたらしい)を結成してレコードまで出していたことがあったから、ジャズに関してはなかなかの玄人はだしで上手いはずなのである。



話の筋は、広沢虎造杉狂児の友情に支えられながら浪花節の名人として大成するまでを追ったもので、斬新なプロットとかそういうのは全くない、極めてオーソドックスなお話なのだけれど、そうは言っても、そこはマキノ節。ツボをキチンと押さえた涙と笑いがあり、判ってはいても、やっぱり笑わされ、泣かされてしまう。わたしは好きだなあ、マキノ映画。



広沢虎造が三味線とともに浪花節をうなっているだけではなく、杉狂児のバックバンドを従えた軽快なジャズソングも聞けて、一本で二度美味しいというか和洋折衷というか何でもありのごたまぜ状態なのが、こんなのやるのはサービス精神旺盛なマキノだけだよなあ、としみじみ感じ入って今日も大満足、大へん愉しゅうございました。



他に、古川緑波長谷川一夫の『男の花道』(東宝、1941年)と阪東妻三郎大河内傳次郎の『怪傑紫頭巾』(C.A.C.、1949年)も観たけれど、やっぱり三本は集中力が続かず、『男の花道』はおむすび効果で途中でウトウトしてしまって、『怪傑紫頭巾』は阪妻のこれぞヒーローというさまが判りやすくカッコいいけれど、やはりわたしは剣劇映画をあまり得意ではないらしい。もう中年に差し掛かっているはずの阪妻の流れるようなきりりとした目は二川文太郎監督作品『雄呂血』(阪妻プロ、1925年)*2の頃と変わらずとても綺麗で、一昨年亡くなられた田村高廣さんはほんとうに父親にそっくりだったんだなあと思う。客席の前の方に背の高い、すっと流れるような目が色っぽく綺麗で鼻筋のとおった男性がいて、はて、彼は阪妻の親戚の方ではないか知ら?などと思った。ロビーで田中眞澄先生らしき人も見かけた。


*1:ああ、この女性が入江たか子に『瀧の白糸』の水芸を教えた人か!と思って、またしても思い出すのは英パンこと岡田時彦演じる『瀧の白糸』村越欣弥なのであります。

*2:そういえば、この作品も原作は寿々喜多呂九平なのだなあ。