しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


マキノの幸福冷めやらぬ日曜日、無声映画伴奏者の柳下美恵さん企画「お宝映画上映会」にて、昨年見逃して地団駄踏んで悔しがっていた、牛原虚彦『海浜の女王』(1927年、松竹蒲田)と斎藤寅次郎『モダン怪談100000000円』(1929年、松竹蒲田)が再びかかる!というので喜び勇んで出かける。



まずは、斎藤寅次郎の幻の喜劇『モダン怪談100000000円』。英パンの蒲田時代の親友、斉藤達雄のオーヴァ・アクションが可笑しくて愉しい一本。「喜劇の神様」と呼ばれていた頃に撮ったスラップスティックの数々は今はほとんど失われてしまっていて『子宝騒動』(1935年)が残っているくらいだと佐藤忠男『日本映画史 I』に書いてあったので、才気迸る無声映画時代の斎藤寅次郎の作品とあらばぜひ観てみたいと思っていたのです。



白い帽子(と聞いて、ピケ?とか思ってしまうのは小津の観過ぎ)にタートルネックのセーター姿の斉藤達雄にストライプのワンピースを身につけた松井潤子。貧乏青年の松田(斉藤達雄)は、富美子(松井潤子)との結婚を彼女の父親(坂本武)に反対されて赤城山に心中目的で駆け落ちする。飯盒でご飯を炊いていると、何やら鍬をかついだ人々がわんさと登ってくる。聞けば国定忠治埋蔵金を掘り当てるためという。それを聞いた彼らもお宝を掘り当てるべくさっそく鍬を片手に参加するが、なかなか見つからない。途中、迷い込んだ化け物屋敷からほうほうのていで逃げ出す(恐ろしさのあまり白目になりながらへっぴり腰でカメレオンのような歩き方になってしまう斉藤達雄が最高)と国定忠治の幽霊が出てお宝の在処が判る。富美子の家ではすっかり娘が山で死んだと思い込み遺影を掲げて葬式をしている。そこへ、下山した富美子が帰ってくるが父親は結婚を許さなかった娘の怨みで出て来た幽霊だと思って慌てうろたえる。遅れて斉藤達雄がボロボロの姿になりながらも掘り当てた一億円の埋蔵金を持参したので、金持ちとなった松田と富美子は父親の許しを得て目出たく結婚することになった、おしまい、という、まさに他愛ないとしか言い様がないお話。



「喜劇の神様」というのでめくるめくギャグの連発かと思いきや、そうでもなくて、その辺りが少々肩すかしであったけれど、冒頭で、斉藤達雄の背が高いのではり出した木の枝に首が引っかかって前に行けないのに、松井潤子が無理に引っ張ろうとするので斉藤達雄が苦しがって目を白黒させるシーンや、勝手に死んだと思い込んで松井潤子の葬式を挙げてしまうシーンで、木魚のクローズアップの次に坂本武の禿げた後頭部が大写しにされるところなど、超古典的なギャグがなかなか新鮮でよかった。『子宝騒動』も観てみたいなあ。



そして、本日の極私的大本命であるところの牛原虚彦『海浜の女王』!The queen of the shore!
たった15分の小品ですが、それがモダニズム全盛期の1927年度作品、そして「蒲田モダニズムの寵児」牛原虚彦監督作品とあらば、個人的には何をさておいても観なければッ!という訳で久々にわくわくと嬉しさに脈が上がりました。しかも、同年の同じく牛原虚彦監督作品『昭和時代』*1の鈴木伝明・柏美枝コンビ*2とあらば!



動いている柏美枝をはじめてスクリーンで観たのですが、パッツン断髪が本当にルルそっくり!でもうめちゃくちゃ可愛らしい。木立の道をアイビー風のVネックセーターを身につけた鈴木伝明と腕を組んでやや俯きがちに歩くシーンなぞ思わず黄色い声を上げてしまうほど。女装した鈴木伝明が派手なカーチェイスをやらかし、オートバイにまたがり、さすが、元祖スポーツマン俳優という感じに追っ手をバッタバッタとなぎ倒して行くのもまさに「モダン活劇」の趣きでもうひたすら痛快で、ちらと映る鎌倉駅のホームや、逗子か鎌倉の海岸の砂浜に柏美枝がストラップシューズに日傘を差してお散歩するシーンは、この土地に人一倍愛着*3を持っている者としてはひたすら嬉しくなるような眼福で、ああ、映画よ、終わらないで!と思ってしまうほどだった。



この二本が観たいがためにこの会に参加したようなものなので、他にも伊藤大輔監督作品、大河内傳次郎主演『長恨』(1926年、日活大将軍)や月形龍之介主演『斬人斬馬剣』(1929年、松竹京都)など貴重なフィルムが上映されたのにもかかわらず、集中力が切れたのか途中猛烈に眠気が襲って来てどちらも半分くらい寝てしまった、残念だ....。どうもわたしは伊藤大輔監督作品とは相性が悪いのか、チャンバラを観ているといつも眠くなってしまっていけません、というか単に剣劇映画が苦手なのかもしれませんが。

*1:当時の『映画時代』(1927年6月号)の映画評で古川緑波が「私みたいな映画中毒者が此んな長尺をいい気持に見終わることはーー西洋物なら知らず、日本物では全く珍しい。それ程之は面白い。」「小林正の原作がいい、奇抜で、気が利いている、脚色が何と言っても此の映画の大部分のよさは脚色にあるのだが、素敵にいい。」と物凄い褒めようなのです。ああ、この作品もフィルムが見つからないか知ら!

*2:画像は京都映画祭(http://www.kyoto-filmfes.jp/)の公式サイトよりお借りしました。

*3:岡田時彦逗子開成に通っていたし、『アマチュア倶楽部』撮影時には鎌倉に住んでいたのだし。