しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


そんな祖母が大ファンだった片岡千恵蔵*1主演の映画二本、マキノ正博『鴛鴦歌合戰 』(1939年、日活京都)『清水港 代参夢道中』(続清水港)(1940年、日活京都)を新年初のフィルムセンター(http://www.momat.go.jp/FC/fc.html)にて鑑賞する。2008年の映画ことはじめの一本は勿論マキノ!と随分と前から決めていたから、足どりも軽くイソイソと早起きして、上映一時間前にはロビーで待機するという気合いの入れようであった。



『鴛鴦歌合戦』における奇妙な幸福感と高揚感については、皆観た人が揃いも揃って頬を上気させながら笑顔で「素晴らしい!」「最高!」と叫ぶか、もしくは会場を出るなり「さーてさてさてこの茶碗ー」と鼻唄まじりにディック・ミネ扮する殿様のパートをハミングするかの、そのどちらかに陥ってしまうという程に本当に凄まじいレヴェルのものなので、もしもわたしの友人で未だ幸運にもこの映画を観たことがない人が居たとしたら、とにもかくにも万難排してフィルムセンターに駆けつけて欲しい、話はそれからだ!(←って何様という感じですが.....)と思うのだけれども、まあ、ともかく、思わずそんな余計なお世話まがいに強く薦めてしまう程に、稀有な種類の幸福感の溢れる映画でありますから、未見の方はどうぞぜひご覧いただきたいと思います。



続けて『清水港 代参夢道中』も観る。いやこれまた愉しかった。千恵蔵と二代目広沢虎造の三十石船での掛け合いの小気味好いこと。横を見遣ると広沢虎造浪花節が大好きな家人とその友人はすこぶる嬉しそうであった。それから七五郎役の志村喬の上手いこと上手いこと。もう上手すぎて拍手したくなる。ああいう素晴らしい演技を目の当たりにしてしまうと、昨今のテレヴィ俳優なんざもう下手すぎてとても観て居られない、とか思ってしまい、ますます日本の古い映画ばかりを観に足しげくフィルムセンターに通うことになってしまうのです、これがわたしにとって良いことなのかどうなのか、かなり微妙ですが.....。



『鴛鴦歌合戦』の上映終了後にはお友達のMさんにばったりで嬉しく、『清水港 代参夢道中』の時には何とすぐ後ろの席に元東大総長であるところの蓮實重彦先生が坐られたので「おお!」と驚く。まったく関係ないのに何故か緊張(←バカですみません)。さすがにさすがという感じで上品で仕立ての良い服を着ていらっしゃいました。フィルムセンターでお洒落している人を見かけると何となく嬉しくなって凝視してしまうのがわたしの悪い癖。



そんなこんなで、とりあえず2008年もはじまりました。昨年は英パンこと岡田時彦に首っ丈だったおかげで、戦前の日本映画に関する調べものにせっせと一人いそしんだ一年で、愉しすぎる時間でありました。引き続き英パン狂躁曲も続けるつもりではありますが、今年もそんなハートに直撃!なすてきな出会いがあるか知らあるといいな。映画に関して言えば、今年は新年早々フィルムセンターでマキノ雅弘特集だし、アテネフランセでは溝口健二成瀬巳喜男特集だし(見逃して地団駄踏んで悔しがっていた『乙女ごころ三人姉妹』がかかるし、金井美恵子先生のトークもある!キャー楽しみ)、来月からはBunkamuraで「ルノワールルノワール展」でしかも、日仏、アテネ、フィルムセンターで狂喜のジャン・ルノワール特集だし、目がまわるほど映画で忙しくなりそうで嬉しい悲鳴(?)。



という訳で、ここを読んでくださっているみなさまにとって今年も良い一年となりますように。


*1:わたしも長谷川一夫より断然千恵蔵の方が好き、山田五十鈴と組んだ『昨日消えた男』(1941年)は素晴らしいけれど。