しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


ジョルジュ・バルビエのイラストレーション!



国立近代美術館フィルムセンター小ホールにて「映画を記録する」。お目当ては『日本映画史 第一部/第二部』(大日本映画協会、1941年)で、ひょっとするともしや岡田時彦のスチルなぞ拝めたりして、という淡い期待を抱きつつ、横断歩道を渡って右手にテアトル銀座で本日より封切のマノエル・ド・オリヴェイラ夜顔*1の広告を横目に遣りつつフィルムセンターへと早足で急ぐ。



まずは『日本映画史 第一部/第二部』を観る。『日本映画史』と銘打っている割には、日本に輸入された洋画の映像がかなり多くてその辺りが少し残念だったけれども、フランス映画『ジゴマ』(1912年)が公開されると、満都の人々から熱狂的な支持を集めて社会現象を引き起こし『ジゴマ』イコール「不良少年」の代名詞となり、ついには警察が上映禁止の措置を取るまでになった*2、という話など、映画(というか活動大写真)が当時いかに庶民の新しい娯楽としてもてはやされていたかが見て取れるエピソードとしてとてもおもしろい。こういう話にはいつだって胸がときめく。草創期の日本映画史に名を残した映画人たちの手記を読むと、子供の頃に観た『ジゴマ』に震撼して、ジゴマごっこをして遊んだ云々、という話がたびたび出てくるので、なんとなくはイメジしていたものの、なるほどこういうことだったのか、と思う。日本映画については、未見の村田実『路上の霊魂』(松竹キネマ研究所、1921年)の断片(鈴木伝明と英百合子)や、大河内傳次郎が観られたのがよかったし、震災でダメージを受ける前の日本初のガラス張りの撮影所となった日活向島撮影所や本でしか見たことがない浅草凌雲閣(通称十二階)の映像にもわくわくした。しかしながら、どうにも不満なのは、「目玉の松っちゃん」こと尾上松之助の次に出てくるのが、田中絹代上原謙の『愛染かつら』(松竹大船、1938年)なんだもんなあ(笑)。まあ、結局は「軽佻浮薄」で片付けられてしまったであろうモダニズムなので、仕方がないことなのかもしれないけれど、それにしてもちょっと端折り過ぎではないですか!という訳で、英パンのスチルが拝めるなぞという淡い期待はもろくも崩れ去ったのでありました。ああ、日活そして蒲田モダニズム....。残りの記録映画もそれなりにはおもしろかったのだけれども。



そのあと、アンティークモールをひやかして、何となく目に留まったビーズバッグを買い、大混雑する伊東屋で必要な買い物を済ませた後、気を取り直して、ハウス・オブ・シセイドウ「香りと恋心 バルビエのイラストレーションと香水瓶展」(http://www.shiseido.co.jp/house-of-shiseido/html/exhibition.htm)を覗く。これは素敵すぎてうっとり指数100という感じでございました。アール・デコイラストレーター、ジョルジュ・バルビエの描くファッションプレートの何とまあ麗しいことよ、まさに眼福としか言い様がないため息ものの素晴らしさ!ニュアンスのある色遣いも細やかで流麗なタッチもパリのエスプリもすべて入っている。だって「ひだ飾りとレース飾り」("Falbalas et Fanfreluches")ってそれ!タイトルだけでくらくら。何て美しいタイトルなんでしょう!贅沢で綺麗でこれぞラグジュアリーの極みという感じ。ていうか、こういうのが真のラグジュアリーというのよ!(そりゃブルジョワですが)って心底そう思います。今、雑誌の広告や誌面で踊っているこの言葉「ラグジュアリー」の使い方は根本的に間違っている、とか皮肉のひとつも言いたくなる。



バルビエは"Gazette du Bon Ton"でも描いていたのだな。"Gazette du Bon Ton"といえば、プラトン社の『苦楽』や『女性』で山名文夫や山六郎が好んで表紙や挿絵のモティーフにしていた(というかほとんど模写していると言った方がいいのか)高級婦人雑誌で「今世紀最大のモード誌」とも言われているとか。以前も紹介しましたが(id:el-sur:20070125)岐阜県図書館でまとめて観ることが出来ます。こちらもまさに眼福。それにしても、バルビエの流麗なイラストの数々を観ながらも、オールバックの細面ですっと鼻の高い美男子の横顔を観て「英パン...」と思ってしまうというのは、やっぱりちょっとビョーキではないかと。アハ、馬鹿ですね。でもバルビエはヴァレンティノが出演する映画にも衣装デザイナーとして係っていたらしいから、「日本のヴァレンティノ」と言われていた英パンと繋がらないことはないのだわ!*3とか言ってみたりして。


*1:夜顔』は迷い中で、レイトでかかっている『わが幼少時代のポルト』は観にいくつもり

*2:このあたりの話はここに詳しい。ゆまに書房『最尖端民衆娯楽映画文献資料集 全18巻』(http://www.yumani.co.jp/detail.php?docid=307

*3:この二枚目のプレートなんて、まるで岡田時彦主演・阿部豊監督作品『彼をめぐる五人の女』(日活大将軍、1927年)の中の一幕のようですわ!(って女性は四人しかいないけど....)