しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

清水宏『金環触』(松竹蒲田,1934年)



好きな女優さんの一人であるところの桑野通子がモダンガール役でお目見えし、しかも森永キャンデーストアでお買い物をするシーンが見られるというので、前々から「観ないとリスト」に入っていた作品をようやく遅ればせながらヴィデオ鑑賞。えー「クラブ白粉」のネオン発見、とメモ。



柔らかものの着物がよく似合うはんなり美人の(これまたわたしの好きな女優の一人)川崎弘子と、すらっと背の高い洋装の似合うスタイル抜群のモダンガール・桑野通子とのコントラストも見目麗しいので嬉しく、久米正雄による原作も通俗メロドラマとして面白くプロットもよく出来ていると思うし、此の二つの点に於いては何の文句はないのだけれど、しかしながら、どう譲っても、二人のこんなに素敵なヒロイン(+寄り目がちの坪内美子)に惚れられてしまう「二枚目」役に藤井貢っていうのが、えーと、我慢出来ないほど酷い(笑)!ので、もう途中からメロドラマなのに、藤井貢が映るシーンがもはやすべてギャグにしか見えずに大いに困りました。こんなに「二枚目」に違和感を持ったのは、オリヴェイラ『クレーヴの奥方』における「ええー、何であんなに綺麗なキアラ・マストロヤンニがこんなハゲのおっさんに恋するの!?」で驚愕するしかない、ペドロ・アブルニョーザ以来かも.....。



いやはや、この時期の松竹蒲田はやっぱり相当キツかったんだなということが判る。初代松竹三羽烏だった「鈴木伝明・岡田時彦・高田稔」が1931年に松竹からごっそり不二映画に移籍して、ピカピカの「二枚目」を張れる男優が誰もいなくなってしまったから、脇役中心だった江川宇礼雄に急遽主役級がまわって来たというのを何処かで読んだことがあるけれど、江川宇礼雄と大日向伝はまあ何とか許せても、藤井貢をそこに入れるのは「三羽烏」の名が泣きますわ!という位にもう.....。千恵蔵(断っておきますが、片岡千恵蔵はかなり好きなのです)の美貌を半減、いや三分の一にしてさらに横に太らせてタレ目にしておまけに縮ませた「ちんちくりん」にしか見えないし....(←酷いな、おい)。演技は大根だけれど、これだったら『非常線の女』の岡譲二の方がまだ二枚目な気がする。1937年に「上原謙佐分利信佐野周二」による新・松竹三羽烏が組まれるまでは蒲田の現代劇は受難の日々だったんだなあ.....。どんなに女優さんが素敵でも相手男優がこれじゃあねえ....と、がっくり。小津安二郎がちょうどこの頃に「喜八もの」を撮ってしまうのは、勿論、モダニズム文化の輝きが終焉を迎えつつあったこともその一因かもしれないけれど、これはある意味必然だったのか知ら?などと思う。