しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

今週末もシネマヴェーラで映画鑑賞からスタートする暑い一日、今日は清水宏の『不壊の白珠』(1929年)英語字幕版。なんでもチェコの映像所にて当時の指定に即しての復元版ということで、まるでセピア色の写真に彩色したお土産ものの絵葉書のような画面に、思わず笑ってしまう。最近、英パンの親友だからって高田稔の顔ばかり観ているのでなんだか目に焼き付いて離れない、あの眉間の皺の奥の大きくつぶらな瞳。高田稔って何だかコリー犬ぽいな....。



初期は「スターをたくさん使った喜劇やメロドラマで会社を儲けさせていた」(佐藤忠男『日本映画史 I』*1清水宏だけれど、この作品はまさにそんな時代に製作された作品という趣き。出演は2年後の大メロドラマ『銀河』(1931年)と同じ高田稔と八雲恵美子コンビで、しかも原作に小津安二郎が「ケッ!」と馬鹿にしていたらしい(笑)通俗文学の大御所・菊池寛とくれば、内容は推して知るべし、てな訳で特に多くを述べないけれど、それでもあの1929年当時のフィルムがちゃんと残されていて、こうして観ることが出来るということがとても素晴らしい。『不壊の白珠』は主題歌まであって、西条八十中山晋平という『東京行進曲』(1929年)の黄金コンビが作っていたのだな。



跳ねっ返りで浮気なモガ役の及川道子が唐傘にベレー帽を斜めに被りひらひらしたワンピースを身につけているのが可愛い。街中の御薗化粧品で高田稔に化粧品を買ってもらおうとはしゃぐのが「あれー、クラブ白粉じゃないんだ」と思う。1929年当時はまだ中山太陽堂と松竹蒲田はタイアップしていなかったのね。あと、ほんのちょい役で出てくる伊達里子がルイズ・ブルックスばりのパッツン断髪でのちの不良モダンガールとしての役どころの萌芽を見たような気がした。しかも、どう見ても発育もよく断髪洋装でずけずけ喋る伊達里子の方が不良モガなのに、地味着物を着た古風な八雲恵美子に向かって「職業婦人ってどんな仕事をなさるんですか?」「あら、タイピストの中にも真面目な方はいるのねー」とか何とか皮肉たっぷりに言っているのが可笑しかった。ていうかむしろ真面目に見えないのはあなたの方だから!と心の中でツッコミを入れながら観る。