■
阪神間遊覧日記・その2
・中之島界隈は私の『近代大阪』
「小津ごっこ」ができる*1ダイビルを出て、中之島界隈へ。阪神高速環状線がカーブを描く下を、堂島川と土佐堀川がゆったりと流れ、途中いくつも橋が架かっている。どっしりと構える日本銀行を背に淀屋橋に立ちながら、御堂筋のあまりの立派さに驚き、かつてここが東京を凌駕した大都市・大大阪だったという事実をひしひしと感じる。耳を澄ますとペエブメントにモダンガールが闊歩するハイヒールの音が響くのが聞こえてくるかのよう。土佐堀川のきらきらと煌めく水面、けやき並木の連なる川沿いの幅広な散歩道はあまりに心地よく、東京には果たしてこんなところはあるのか知ら?と大阪を羨ましく思う。しばらく行くと、左手に何とも素晴らしい建造物が見えてきた。中之島図書館である。中央のドーム型のホール天井にはエメラルドグリーンのステンドグラスのようなものが嵌め込まれそこからあかるい光が差し込む、ぐるりとカーブを描く手すりのついた広い階段。こんな近代遺産のような図書館が誰でも利用できるなんて素晴らしい!書架で図録を閲覧していたら、前田藤四郎という画家が大へんに気になってメモ。昨年の3月に大阪市立近代美術館準備室で展示があったようで、ああ、観たかった。大阪市立近代美術館準備室の過去の展示はどれもこれも気になるものばかり(『佐伯祐三展 熱情の巴里』『”大大阪”誕生80年記念 モダニズム心斎橋近代大阪/美術とシティライフ』『生誕100年記念 吉原治良展』)でまたしても、「ああ、うらやまし、大阪!」とハンカチを噛み締めたくなったのであった。やっぱり主任学芸員に橋爪節也さんがいらっしゃるからか知ら。モダン大阪関連の書物を開くと、必ずと言っていい程、橋爪節也さん・紳也さん兄弟の名前を見かけるので、今何かと気になるご兄弟なのである。大阪市立近代美術館、開館したらまたきっと訪れたい。
「橋と、建物と、河との調和美によって、作り出された近代都市風景!」(北尾鐐之助『近代大阪』)
・北浜〜本町モダン建築日和
中之島を川沿いに歩き、一路北浜へ。念願の「アトリエ箱庭」へ行く。ちょうど前日まで展示されていた山下陽子さんの作品展の撤収作業でお店は開いていなかったのに、無理言って頼んでギャラリーを観せてもらう。快く応対してくださった幸田さんに感謝します。山下陽子さんのコラージュが印刷された美しい紅茶缶
さて、本町の綿業会館である。今回の旅の日程が偶然第4週の土曜日を挟むことになったため、幸運にも見学日と重なって目出たく観ることができた。前日に黄色い声をあげたダイビルの設計者と同じ渡辺節によるものである。ここはもう、うっとりため息を吐くしかないというほどに素晴らしい建造物で、ただただ優雅な気分にまかせて辺りを見回すのが正しい観覧の仕方ではないか知ら。精巧なレース編みのような玄関の飾り格子は、これぞプラトン社で山名文夫や山六郎が『女性のカット』において描いていた図案の数々と同じ種類の優雅さ!とわくわくと嬉しくなる。玄関ホールの大きなシャンデリアはルネッサンス調、米国スタイルの会員食堂の天井にはデイジー。そして、何と言っても、クイーン・アン・スタイルの部屋のミント・グリーンの天井に小鳥やざくろや薔薇のレリーフが施されている、その愛らしさ、優雅さときたら...!ただ、ひたすらにため息。こんなに素晴らしい建造物を街に持っている大阪はこのことを誇るべきと思います、ってわたしごときが言うことではないですが...。