しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


阪神間遊覧日記・その1


ダイビルと大大阪のプラトン



1920年代〜30年代のモダン都市文化に俄然夢中な今、こんなにぴたりとくる展示があるならば、ええい、大阪へでも何処へでも行かねばならない!と矢鱈に一人盛り上がって、そそくさと阪神間行きを決めてしまったのだけれど、その過剰な期待に違わず会場の「大大阪」が入っているダイビルというビルヂングは、正面玄関のレリーフには右手を挙げた女神が立ち、足元には三羽の鳥が羽ばたこうとしている様子が見て取れる大へんに迫力のある建物で、見上げた途端に脈が上がる。白い天井なんてまるでデコレーション・ケーキのよう!モダンガールの登場を1926年とすると、ちょうどその前夜とも言える1925年に建てられたというこのダイビルの設計者は渡辺節で、今回偶然に見学することができた日本綿業会館も彼の手に寄るのだそう。


と、ダイビルが素晴らしいのでビルのことばかり書いているけれど、お目当てのプラトン社の展示も勿論素敵だった。山名文夫や山六郎の描いた、本物の『女性』や『苦楽』の表紙をじっくりと眺めることができてほくほくと嬉し。ただ、講談社の『キング』に対抗して『クラク』と名前を変えてからの2冊には、20年代のモダン文化と共に興り共に散ったプラトン社の行く末に否が応にも思いを馳せてしまい、見ていて何とも切ないものがあった。単行本の方は、山六郎の手に寄る里見とん『今年竹』が特に美しいと思う。深みのあるヴァイオレットに彼独自の流麗な線による竹模様がダイヤ型の枠に嵌め込まれた意匠、それはそれは洗練された美しさであった。