読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


週末は、目黒川沿いの遊歩道を少し入った目黒区美術館へ、お友達が出品している東京製本倶楽部展「本の国、本のかたち」を観に行く。川面に覆い被さるように枝のたわんだ桜の樹々はまだ褐色の固いつぼみにほんの少し新芽の鮮やかな緑が見えるくらいといったところ。桜の見頃をいつかいつかと皆がそわそわしながら待っているのが伝染するかのごとく、わたしもこの季節は何となく桜のために気もそぞろで落ち着かない。


入り口近くから順番に観て、気に入った気になった作品に丸印をつけてゆく。優しげな和菓子のような色合いが好みだった市田文子さんの中原中也の詩集、大谷かほるさんの現代アートみたいな製本、大越国恵さんの『古書修復の愉しみ』(大へん美しかった!)、進んでゆくとお目当てのお友達の作品があった。これこれ、と思いながらにんまり、じっくりと前から後ろから観る。森茉莉恋人たちの森』はシックな鼠色の布張りで、真ん中にダイヤ型の模様が嵌め込まれていて、確かに解説に書いたあったとおり「古いアパートのドア」みたいだけれど、やや唐突とも思えるイメジが麩仁子さんらしく可笑しくて、思わず笑ってしまう。背表紙のアルファベットで刺繍されているタイトルの、"no"の文字だけが桃色の糸で施されているところもぐっと来る。グレイと桃色の組み合わせは、この前話していたプラトン社の本と同じだなあと思って、それもまたにやにやと嬉し。田村美弥子さんの出品されていた三冊、『オウカッサンとコレット』『マノン・レスコー』『80日間世界一周』どれも素晴らしかったけれど、特に『オウカッサンとコレット』が大へん好み。鮮やかな蜜柑色に薄いブルーグレーという組み合わせがはっとする程美しくて、いつまでも眺めていたい惚れ惚れとするような作品でした。


それから、最も目を凝らして長いことじっと観ていたのは柿原邦人さんの縮緬*1シリーズ24冊!何て可愛らしい小さな本たち。縮緬のように細かい皺が入った和紙に多色刷りの版画が印刷されている本なのですが、精巧な技術によって作られた紙も素晴らしければ、そこに刷られている版画の何とも言えない絶妙な色合わせと、小林永濯という下絵師の確かな技術に裏打ちされた、細やかでユーモア溢れる筆遣いの素晴らしさときたら!『舌切り雀』や『猿蟹合戦』など日本の昔話*2を題材に、主に外国人向けのお土産品としてつくられたらしいこの縮緬本ですが、単なるお土産品として見過ごすにはあまりに美しく、おどろおどろしく、ユーモラスな素晴らしい意匠が溢れていて、出てくるのは「わあ....」という感嘆のため息ばかり。縮緬本なんていうこんなに素敵な本が日本にあったなんて、まったく知らなかった。これは観られてよかった。


その後、美術館に戻り、駆け足で「チェコ絵本とアニメーションの世界」展を観る。アドルフ・ホフマイステル『キリン?それともチューリップ?』(1964)シリーズが一番良かった、と思うのはわたしがアヴァンギャルド芸術好きなのと、コラージュ好きだからかもしれません。階下のカフェでバームクーヘンを頼んだら、あらまあ、セロファンに包まれて出てきたのはマッターホーンのそれで、思わぬところで「す」のサインと垂れ目の人形に再会し、これまた嬉しくにっこり。マッターホーンに早いところ行かなくては、とまたしても思う。


*1:ここに画像が色々載っていました。やっぱりこういうコレクションものは雄松堂なのですねー。 http://yushodo.co.jp/pinus/63/chirimen/index.html#tirimen1

*2:画像は『しっぺい太郎』(Les contes du vieux Japon, NO.17 Sippeitaro)の仏語版。満月のもとで、猫たちが踊っている!のを見るだけで脈拍上がります。