しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや


今日もM先生のうちの前を自転車で通る、朝と夕方。


朝のNHKニュースのお天気お姉さんが「今日はいつもより一枚多く羽織ってお出かけください」と言っていたので一枚多く着込んできたのに思ったよりも暖かくてこの分だと坂を上り下りしているうちに汗ばんできそうなのが嫌だなあと思う。マンションの2階の角の部屋を見上げて今日もやっぱりまだカーテンが引かれたままなのを確認して角を曲がりながら、そういえばわたしのイニシャルもK.M.なんだなあと思う、先生と同じだ。なんだ、今まで気がつかなかった。だから何ってわけじゃないのだけれど、なんだかそのことが嬉しい。けれども、その他は何も似ていない。ああ、わたしにも『桃の園』のような、プルーストのプティット・マドレーヌじゃないけれど、一見何の関連もなさそうなイメジの連鎖で幼少の頃の記憶の底を疼かせるような作品が書けたら....!というほのかな思いとともにこうして手を合わせんばかりに日参しているのです、ってそりゃ大きな勘違いなのは、ええ、十二分に判りすぎるほどに判っておりますってば。欲しきものはタレントなり。


夕方、またしても前を通る。今度は電気が点いている。蛍光灯のあかりではなくて親密な蜂蜜色の優しい光が漏れている2階の角の部屋。確信がある訳ではないけれど、M先生の部屋がきっとこの角部屋だと思ったのは、あかりが蛍光灯ではなく白熱灯だから。白熱灯の光を好むというのはいかにもM先生らしいと思うのだけれどもはて真実は?夕方から夜にかけては、いつ前を通ってもその角部屋のカーテンの隙間から優しい光が漏れているような気がする。そうだわ、そうよ!きっとここに違いない!と勝手に思い込んでにんまりしながら今日も2階の窓を見上げる。