しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

新文芸座吉村公三郎西陣の姉妹』と『貴族の階段』の二本立てを観る。


西陣の姉妹』(1952年 大映


京都・西陣で栄華を極めた名織元の大森家が時代の流れとともに没落して多額の借金を抱えたまま店の主人は自殺。後に残された三姉妹と母親、それを取り巻く人々の悲哀とうつろいゆく世の無情を描く。


三姉妹の次女でヒロインの久子役に宮城野由美子、「お前は時代遅れだ」と兄に言われようとも立ち行かなくなったお店に最後まで残り、金目のものを根こそぎ競売に賭けようとする高利貸に忠誠心のあまり刃物を向けて警察に捕まってしまう番頭に宇野重吉、自殺した主人の妾で芸者役に田中絹代、ショックのあまり寝込んでしまいその心労が元で死んでしまう母親役に東山千栄子、どこまでも嫌味で無慈悲な高利貸の役に小津安二郎麦秋』の菅井一郎、そして関西の金持ちで軽薄な男をやらせたら天下一品の進藤英太郎、あと織職人の義理堅いおじいさん役で殿山泰司が出演していて、三姉妹の脇を固める役者が皆揃いも揃って芸達者な人たちばかりなので安心して観ていられる、のでこれは秀作には違いないのだけれど、それでも何かこう、物足りないというか、イマイチぱっとしない気がするのはやっぱり主役の三姉妹が名傍役ほどにはそれぞれ魅力的じゃないからかも。


次女役の宮城野由美子も丸いお顔にパンダのお目々で終始うつむきながらそっと伏せた目に長めの睫毛が覆い被さるのがいじらしく可愛らしいけれど、でもやっぱり『西鶴一代女』の田中絹代や『祇園の姉妹』の山田五十鈴の神懸かった演技と比べてしまうとねえ.....ってこんな日本映画史上に燦然と輝く第一級作品と比べてはいけないのか、まあそれはともかく。


俯瞰と移動撮影が息をのむような美しさの宮川一夫のカメラはやっぱりはっとするほどに素晴らしかったし、長女と次女姉妹の着物も可愛いかった(三姉妹だと必ず末っ子は着物じゃなくて洋装なのね)し、何せ個人的には東山千栄子にあの大層優しそうなたれ目でしみじみ喋られるだけでパブロフの犬的に泣けてくるのだし、進藤英太郎も関西を舞台にしたモノクロ映画には全部出演すればいいのにっていうほど関西の成金おっちゃんがぴたりハマってていつものように最高だし、田中絹代は毎度のことだけれど颯爽とした着物が肌に吸い付くように見えて美しいし、そうは言ってもかなり楽しんだのですけれどね。脇役とカメラが素晴らしい映画。



『貴族の階段』(1959年 大映


えーっと、これ観たいがためにいそいそと出かけたのですが、もっぱらの松竹と東宝っ子で、大映慣れしていないわたしにはちょっと辛かったです、だって端的に言って俗っぽいんだもの!(うわー言っちゃった)って、大映映画ファンの方々すみません.....いえね、大映慣れしていないだけできっと大映映画をこれからたくさん観ればその魅力も判ってくるとは思うのだけれど.....


昔読んだ原作の武田泰淳『貴族の階段』*1が大好きだった記憶があるのでその映画化とくればワア観てみたい!と思っていてようやっと念願かなっての鑑賞だった訳ですが、出てくる女優はなんだかどうもバタ臭くって鼻にかかった喋り方をするのが。この作品には出演していないけれど、京マチ子をはじめとした大映女優のあの特有の俗っぽさとバタ臭さを兼ね備えたような雰囲気はいわゆる大映映画のひとつの特徴なのか知ら?と思う。この前フィルムセンターで観た同じく大映作品『アスファルト・ガール』主演の中田康子にも全く同じものを感じたな、そういえば。やっぱり女優さんのカラーに永田雅一の好みが反映されていたりするのでしょうか。


主人公の氷見子役の金田一敦子は輪郭が岡田茉莉子似でなかなか可愛かったけど、氷見子がおねえさまと慕う節子役の叶順子はちょっとなあ、若い頃の八千草薫似で美人と言えば美人だけど、どうももっさりした印象なんだもの。節子はもう少しシャープな雰囲気で陰を帯びた知性派美女がよかった。文芸作品の映画化って自分が勝手に想像していたイメジと違ったりするとどうも入り込めないんだよなあ、などと勝手につらつら思いめぐらしたあと、帰ってから原作をぱらぱらやってみたら、原作では氷見子ではなくて、節子の方が氷見子をおねえさまと慕っていた。また、原作の方は血判したり接吻したりと二人のエス的な部分がかなり描かれていたのにそういった要素が映画の方ではほとんど振り落とされてしまっていたのも残念といえば残念。男女間の恋愛よりも「秘密の花園」的秘めごとのような少女同士の精神的な強い結びつきが原作では割と重要なファクターだったのでは?と思っていたのですが。


まあでも日常的に身につけるやたらダーツの入ったウェスト絞りのふんわりワンピースや喪服までも愛らしい小さな包みボタンのたくさん付いたお洒落ワンピースなどの貴族のお嬢様衣装は目に嬉しく存分に楽しめたし、真っ赤な絨毯を敷いた階段、暖炉のあるお部屋と白いバルコニー、真鍮のベッド、レンガ造りの軽井沢の別荘、バスケット積んでマチコ巻きにサブリナパンツでサイクリングとか乙女的ディテールを楽しむ映画としてはそれなりにはおもしろかったのですけれど。