しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

木村荘十二『ほろよひ人生』(P.C.L, 1933)
フィルムセンターにて「和製ミュージカル第一号」と名高いP.C.Lの『ほろよひ人生』鑑賞。
前身は写真化学研究所で、「ピー・シー・エル映画製作所」(のちの東宝)と改称した後の記念すべき第一回自主製作作品。


映画自体は、ところどころモダーンなポスターがお目見えするのが愉しいくらいで、じつにたわいない映画という他ない感じ。ビール売りの少女・千葉早智子*1に惚れてしまった、藤原釜足がけなげなアイスクリーム売りの役で泥棒と追っかけっこしたり、漫画のようなつららの涙を流したりと活躍するのが可愛いナア、微笑ましいナアという程度のもの。基本的には、P.C.L作品とは言っても、制作費を援助してもらったサッポロビールの前身、大日本麦酒のスポンサード・フィルムということなのだそう。(岩本憲児編『日本映画とモダニズム 1920-1930』より)だから、しつこいほどに「エビスビール」の文字が映し出される。ありえない場所にもビール瓶が置いてあったりする。ラストシーンは皆々でビアホールで乾ー杯!そして陽気なジャズソング。じつに、じつに、たわいない映画。藤原釜足はエラの張り具合といい、若い頃のショーケンに似ているわね。


そんな、このたわいない(でも、愛すべき!)映画において特筆すべきは、P.C.Lの初代音学部長に就任した紙恭輔がかかわっているということだと思う。とか知ったようなことを言って、紙恭輔という人は、20年代の音楽を調べていて、二村定一や天野喜久代がらみでごくごく最近知ったのですが、日本初の本格的なジャズマンなのだそう。平井英子『茶目子の一日』にぶっ飛んでからというもの、SPの世界が気になって仕方ないのだけれど、ここは素人が足を突っ込んではいけない場所だとうすうす感じているので、まあほどほどに調べて行きたいと思う。


とか何とか言いつつ、映画終了後はしっかり昭和9年創業のライオン銀座七丁目店にてエビスで乾杯!したものですから、こちらもすっかりのせられちまった、というわけです。


追記:P.C.Lについて調べていたら、ちょうど多摩美の「瀧口修造文庫」*2に行き当たった。1933年から36年まで何と彼はスクリプター(撮影記録係)としてここで働いていたらしい(!)。この作品『ほろよひ人生』においても、クレジットはでないものの、関わっていたとのこと。ここに挙げられている「傾向映画」が観たいなあ。内田吐夢『生ける人形』(1929)、鈴木重吉『何が彼女をさうさせたか』(1930)など。今日、仕事中にこの本*3をぱらぱらやっていたら『生ける人形』のスチールが大へんに素敵だったので気になっています。まあ、この頃の映画のスチールはほとんど全部素敵なのだけれど。

*1:成瀬映画で観るしっとり淑女で古風な彼女と全く違うぶりっこ女子なので「え、これは一体誰?」と思ってしまう

*2:http://archive.tamabi.ac.jp/bunko/takiguchi/t-nish-text.htm

*3:http://www.zuroku.jp/archives/1995/07/22_000000.html#more