しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

岩本憲児・編著『日本映画とモダニズム 1920-1930 』(リブロポート, 1991)

この本は、ちょっとすごいです。久しぶりに本のページを繰りながら「キャアア」と歓声を上げてしまう。

表紙の、これぞ洗練の極み的な、今見ても全く古さを感じさせない、素晴らしくモダンなポスターは当時松竹の宣伝部にいた河野鷹思によるもの。彼が名取洋之助の『NIPPON』に参加していたということは知ってはいたけれど、当時の職場から歩いて3分かそこらだったggg(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)の2003年の展示も何故か見逃していたし*1その前の活動についてはほとんどちゃんと知らなかったのだけれど、戦前の小津作品のポスターも多数手がけていたんだなあ!ああ、もっと早くちゃんと河野鷹思について知っていれば。まあ、遅ればせながら騒ぐ、というか肝心な時にあさっての方を向いてて別な世界に没頭し、世間が一通り騒ぎ終わってから、まるではじめて見つけたかのように、きゃっきゃと騒ぎだすのはいつものわたしの困った癖で得意なパタンなのですが。

閑話休題、まだ表紙の話しかしていません。

それでこの本の内容だけれど、嬉しくなってしまうくらい貴重な写真が満載なのです。図版の目次をあげてみるだけでも「スピード時代」「モガ・モボの肖像」「日活モダニズム」「小津安二郎とダンディズム」「都市のモンタージュ」などわくわくしっぱなし。
おそらくフィルムが現存していないだろう映画から取られたものも数多くあって眺めているだけでトクトクと脈が上がる。

「和製ミュージカルの第一号」らしい木村荘十二『ほろよひ人生』(1933)*2、何で2005年の特集上映で見逃しているんだろう!とまたしても悔しい成瀬巳喜男『限りなき舗道』(1934)、田中眞澄『小津安二郎のほうへ』で北村小松を知って、気になっていた牛原虚彦の『彼と東京』(1928)、それがマキノ雅弘による作品だというだけでむくむくと観たい観たい『ハナ子さん』(1943)、などなど、どれも観たくて仕方ないものばかり、増え続ける観たい作品リスト。こんなの観られる機会はあるのかなあ、あるといいなあ、というか、そもそもフィルムは現存しているのか知ら?それもよく知らないのですけれど。

ほかにも、山中貞雄『人情紙風船』(1937)の美術監督岩田専太郎(!)だった、とか、村田実における芸術の原体験は、あのイサドラ・ダンカンの恋人にして演劇の革命家ゴードン・クレイグの舞台装置だった、とか、色々嬉しくてためになることが書いてある。

20年代から30年代のモダニズム文化、とりわけ映画に興味のある人だったら、ため息ものの一冊になること請け合いです。

*1:原弘のタイポグラフィ展はちゃんと観てたのになあ(!)これは2001年

*2:と、思ったら今月フィルムセンターのミュージカル映画特集でかかるのね!これは行かなきゃ