しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

"Drop of Dreams; Toshiko Okanoue: Works, 1950-1956" (Nazraeli Press*1, 2002)


昨年の冬に世田谷美術館で開催されていた『瀧口修造:夢の漂流物展』で彼女の作品に出会ってからというもの、時計がみるみるゆがんでいって針が物凄い速さで逆回りしはじめ、ヴァイオリンの不協和音が耳を塞ぎたくなるほどに大きな音で響いてくる悪夢の中で溺れてしまうような、モノクロの作品世界に一目で心奪われ、まとまった作品が寄贈されたと聞けば、いそいそと国立近代美術館にも足を運んだりまでしたし、それから幾度となく、くすんだすみれ色の美しい布貼りの装丁のこの作品集を本屋さんで立ち読みしてそのたびにうっとりとため息を吐きながらも、何となく今まで買わないできてしまっていたのだった。それが、つい先日観に行った『コラージュとフォトモンタージュ展』で彼女の作品が何点か展示されていて、やっぱりこれは手元に置いておきたいと思い直して、急いで家に帰ってamazon.comを見たらもうすでにコレクター価格になっていて、定価ではこの作品は販売していないのだった。わー、これはまずいと思い、検索していちばん最初に出て来たNYのonline bookstore、Ursus Books and Prints*2で無事に売っているのを見つけて定価で購入。ああ、よかった!ここの本屋さん、もちろんはじめて利用したけれど、対応もよく、しかもこの世界中の郵送業が繁忙するクリスマス時期に突入しているにも関わらず、4日で届いた。すばらしい。味もそっけもないamazonのオートリプライに慣れきっている身には、ちゃんと担当者の名前の入ったメールもなんだかほっこりと嬉しい。また何かの際にはお世話になりたいと思うよい本屋さんだった。

巻末には彼女のバイオグラフィーもついていて、岡上淑子文化学院出身だっていうのは知っていたけれど、のちに武満徹の奥様となる浅香さんとは十代の頃からの知り合いで、彼女を瀧口修造に紹介したのは武満徹だったということを知って「おお!」と感激した。いろいろなところで繋がっているんだなあ。瑣末なことだけれど、こういうことを知るのはいつもわくわくと胸が躍る。というか、まったく別の場所からアプローチしていて、関連がないと思っていたものが、実はある部分で繋がっていることを発見して驚き喜ぶこと、この悦楽がどうにもこうにも止められなくて、誰に頼まれもしないのにせっせと本を読んだり映画を見たりしているのだと思う。物好きですね、と言われれば、首を縦に振るしかなくて。ハイ、それまアでヨ。

1953年1月、タケミヤ画廊で開かれた岡上淑子のコラージュ展によせた瀧口修造の文章を最後に。


「明けましておめでとうございます。岡上さんは画家ではありません。若いお嬢さんです。独りでこつこつグラフ雑誌を切抜きコラージュ(貼合せ)して夢そのものを描きました。不思議の国のアリスの現代版がこのアルバムになりました。どうぞご覧ください。」