しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

murmur

橋本平八から折口信夫へ、ボン書店経由で北園克衛へ いつもの東京ではなく、生誕地である三重で【異色の芸術家兄弟――橋本平八と北園克衛展】(三重県立美術館)を観たことで、いきおい郷里の風土のようなものが、兄弟の芸術にどのような影響を与えているのか…

青木繁《海の幸》、伊良子清白、モーリス・ドニ《セザンヌ礼賛》 青木繁《海の幸》をはじめて間近に観たのは、確か神奈川県立近代美術館の企画展だったような記憶があるけれど、それがいつのことだったかはもう思い出せない。とにかく「凄い絵だなあ」と思っ…

三重旅行記 その2 津の県立美術館を常設展まで堪能したあと、南下してその日は伊勢に泊まった。そこでいくつかの偶然が重なり、忘れがたい旅の醍醐味を味わったのだった、と言いつつ、ここでは詳しくは書きませんが。嬉しかった/愉しかった記憶は、それだけ…

三重旅行記 その1 夏休みに三重へゆく。名古屋で青色の車を借りて桑名から津、松坂、伊勢、鳥羽と伊勢湾の海岸線に沿うようにして南下する。今年はじめてひぐらしの鳴くのを聞いた。夕暮れでもないのに。まだ八月の半ばにもなっていないというのに。カナカナ…

少し前の話になるけれど、図書館で『左川ちか詩集』(昭森社、1936年)を閲覧する機会があった。黒色の装幀だったのがすこし意外で驚く。何となくフランス装の白っぽい本を想像していたのだ。三岸節子の装画がシックで、ぱっと見た感じはシュルレアリスムの…

ちょっとご紹介するのが遅くなりましたが、友人のmitsouこと奥村麻利子さんがわたしをモデルにイラストを描いてくれました。すこし気恥ずかしいけれど、でも嬉しい。さっそく本棚の上に飾りました(マリコさん、どうもありがとう)。題して「彼女は本ばかり…

「現代詩壇の代理人?」城戸朱理に対する「門外漢」高橋源一郎の応答: http://togetter.com/li/34662 これを読んで思ったのは、現代詩壇という場所はたいへん硬直しているんだなあということ。「門外漢」が詩について語ると、過剰とも思えるような反応が返…

今週末に北参道のBibliotheque(ビブリオテック)*1なるブックカフェ――スペルはフランス語なのに、読み仮名は促音のドイツ語ふうなのが不思議といえば不思議――にて行われる、平出隆『鳥を探しに』刊行記念トークショー「散文へのまなざし」にいそいそと予約…

長谷川りん二郎が戦前にアトリエをかまえ亡くなるまで過ごした場所が住んでいる家の近所だったと知ったのは、大判の画集『夢人館4 長谷川りん二郎』(岩崎美術社、1990年)を手に入れてからなので、もう二、三年前のはずだというのに、その場所をいちど確か…

折口信夫と尾崎翠のこと その2 「学校の後園に、あかしやの花が咲いて、生徒らの、めりやすのしやつを脱ぐ、爽やかな五月は来た。」(釋迢空「口ぶえ」) 「口ぶえ」という小説を読んで、折口信夫というか釋迢空と尾崎翠はつながるのではないか?と考えはじ…

折口信夫と尾崎翠のこと その1 川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店、2010年)というスリリングな著作に感化されて、ここのところせっせと折口信夫と尾崎翠のかかわりについて調べている。 と言っても、折口信夫と尾崎翠の「かかわり」なんてものはな…

山中富美子のこと 昨年の秋に石神井書林の目録に載っていた『山中富美子詩集抄』(森開社、平成二十一年九月)を手に入れてから、何度かぱらぱらと詩篇をいくつか読んではみたものの、これまでじっくり読むということをしてこなかった。詩集は小説と違ってつ…

高祖保を読むと雪がふる 昨日から今日にかけて、小躍りするよな嬉しいできごとがあったのだけれど、ここにそれを書いてしまうと小鳥が羽根をひろげて逃げて行ってしまうような気がするので、書かないこととした。 * 今日の昼休みは書庫に籠って、佐々木靖章…

玲瓏たる雪の詩人の肖像:外村彰『念ふ鳥 詩人高祖保』(龜鳴屋、2009年) 平出隆『鳥を探しに』を読み終えてからというもの、にわかにその辺に居る鳥のたぐいでもそわそわと気になりだし、時間がある時は、鳥を見つけると歩みを止めるようになった。その辺…

扉野良人さんより『sumus』第13号をお贈りいただいた。風のたよりでは、今号の晶文社特集は大へんに話題になっているということ、ありがたきことなり。 扉野さんのエッセイは京都の名曲喫茶クンパルシータと中川六平さんにまつわるもの。 クンパルシータ、懐…

あの美しい本、平出隆『鳥を探しに』(双葉社、2010年)(id:el-sur:20100125)がもたらしてくれた不思議な余韻にひたっている日日。 わたしにとっての良い小説とは、読み進めながらあれやこれやと泡沫の記憶を呼び覚ましてくれるものなのだが、この小説でも…

一月十六日、今日は昭和九年に岡田時彦が亡くなってちょうど七十六年目の日。 昨年の秋に出版された『女優 岡田茉莉子』を読んではじめて、お墓の場所が彼が少年期を過ごした横浜の光明寺にあると判り、すぐさま手帖で命日の一月十六日を調べてみると、2010…

昨年11月の西荻ブックマーク「平出隆×扉野良人」対談と、冬至の日の須磨でおこなわれた扉野さんの企画「とある二都物語」の余韻を、年があけてからもずっと引きずったままで、机の上にはいろんな詩人たちの詩集が散乱している。井上多喜三郎全集、高祖保詩集…

2009→2010 あけましてお目出度うございます。 2009年はいくつかの忘れがたい出逢いがありしみじみよい年となりました。 前半は尾崎翠にかかり切りでこれ以外はほとんど何もできなかったけれど、後半は詩とその周辺に身を置いて忙しくも幸福な時間を過ごすこ…

今回の旅の目的は「とある二都物語」に参加するためだったので、家人とふたり駆け足での神戸ー京都ゆきとなり、神戸では、お昼に「とんかつ武蔵」で貝屋のかまぼこ(竹中郁のご贔屓「ぐーっとまげても割れへんのや、うまい。」)を食べて感動したことと、閉…

『リアン』と『詩と詩論』と『詩・現実』のこと、それから衣巻省三 内堀さんが対話の中で、『リアン』が掲げたのはシュルレアリスムは革命の芸術であり、春山行夫の『詩と詩論』はフランスのシュルレアリスムの紹介にすぎないではないか!ということをおっし…

とある二都物語:山上の蜘蛛、あるいはボン書店の幻 モダニズム詩の光と影 海の見える瀟酒な洋館グッゲンハイム邸にて、扉野良人さん主催の「とある二都物語 山上の蜘蛛、あるいはボン書店の幻 モダニズム詩の光と影」に参加する。オープニング音楽は「かえ…

一月十六日、一月十六日:伊達得夫と岡田時彦 田中栞『書肆ユリイカの本』(青土社、2009年)とその展示とトーク・イヴェント「書肆ユリイカの本・人・場所」の余韻を引きずったまま、平出隆×扉野良人対談では「荒地」の詩人たちの話を聞き、間奈美子さん主…

透明な巨人:瀧口修造おぼえがき もうすぐ11月も終わり、真っ青な高い空にくっきり映える黄金色の銀杏が眩しい並木道を歩く日々もまもなく終わり。 必要があって*1、瀧口修造関連の本をその予習として読んでいるのだけれども、戦前から唯一シュルレアリスム…

またしても冨士原清一のこと ある日。 まっさおさおの空の下、駒場公園で降りて日本近代文学館へゆく。文学館へ至る道に植わっている花水木の葉が赤と緑と褐色のグラデーションでとても美しくて、それを見ると何故かいつも「林檎の礼拝堂」を思い出してしま…

帰宅すると、郵便受けに石神井書林古書目録79號が届いていた。あんなに安い買物しかしていないのに......じーんと感動の巻。台所の丸椅子に座り、蛍光灯の灯りで目録を眺めながら夕飯を作る、蕪の葉とじゃこ炒め、焼き厚揚、きんぴら煮、わかめご飯、長芋の…

雨が降ったからなのかどうなのか、昨日の夕方からとつぜん金木犀の甘い香りが鼻をかすめるようになった。 月曜日、古書会館で開催中の『書肆ユリイカの本』展にゆき、奥平晃一(田村書店店主)、郡淳一郎(元・青土社『ユリイカ』編集長)、田中栞(紅梅堂)…

先日の第34回西荻ブックマーク「ガルボのように---1920-30年代東京・モダンガールとしての尾崎翠」に拙文が掲載されました。こちら→http://nishiogi-bookmark.org/2009/nbm34report/ トークセッションで小澤英実さんが挙げられていた"The Modern Girl Around…

今夜の月はイナガキ・タルホ氏が腰掛けていそうな山吹色の三日月だ。 Ode to the Moon/稲垣足穂月はいいな! 泣かないし笑はないし いやに熱つぽくもないし ハイカラで美人だし 学者だし いつも孤独で新らしいのだし さうして同時に東洋的で西洋的の この品…

ユキや 先月の25日に実家のユキが死んだ。 長毛の白い毛並にところどころ黒の斑を付けて、少し緑がかったマスタード色の眼をした、とても人なつこい猫だった。年老いる前はぴんと張った立派な髭を生やした頬が、木の実を詰め込んだ冬眠前のリスのようにまあ…