しっぷ・あほうい!

或る日のライブラリアンが綴るあれやこれや

murmur

頌春お正月休みも今日で終わり。ほんとうは、お休み中に課題図書(おお!)であるところの、土肥美夫『ドイツ表現主義の芸術』(岩波書店、1991年)を読み進めて、腕まくりしながら橋本平八の二十年代研究に取り組みたいと思っていたのだけれども、半分瞼が…

2010年も暮れてゆきます今年はいつもより一日早い仕事納めであった。27日の寒い晩、荻窪のカフェ6次元であった稲垣足穂イヴェント*1に駆けつけて、その余韻とともに、うちにある数少ない足穂関係の本であるところの高橋信行編『足穂拾遺物語』(青土社、2008…

素朴な月夜:左川ちかと古賀春江 ある日、小野夕馥さんの森開社から『左川ちか全詩集』新版が届いた。初収録の作品なども多数含む待ちに待った増補改訂版である。ほとんど黒に近いマットな濃紺の紙でくるまれた装幀はとてもシックで、"夜の詩人"左川ちかにぴ…

ふたたび、橋本平八とその時代 『純粋彫刻論』で取り上げられていた画家や彫刻家と橋本平八の関係を調べるには、日本における表現主義の受容を見ておかねばならぬと思い、当時の資料など(日高昭二・五十殿利治監『海外新興芸術論叢書』(ゆまに書房、2005年…

橋本平八とその時代――表現主義をめぐって ある日、仕事で書誌を確認するために眺めていた画集"Avant-gardes du XXe siècle arts et littérature 1905-1930"(Flammarion, 2010)に掲載されている、とある図版に目が釘付けになった。 目を凝らしてクレジットを…

モダニスト橋本平八:Hashimoto Heihachi, the modernist 橋本平八の代表作の一つに《裸形少年像》(1927年)という作品がある。今回の世田谷美術館の展示では、この像は最初の扇部屋に配置されており、ぐるりと360度観ることができる。後ろにまわると背中心…

昨日はとある方のご好意により、世田谷美術館(http://www.setagayaartmuseum.or.jp/index.html) にて開催中の【異色の芸術家兄弟――橋本平八と北園克衛展】オープニング・レセプションに参加させていただく。ありがたきことなり。遅れて会場入りしたので、講…

余分の豊かさが溢れている書物:関口良雄『昔日の客』 関口良雄『昔日の客』*1が夏葉社(http://natsuhasha.com/)から復刊された。 これは一部の古本愛好家のあいだで「幻の名著」とされていた古本エッセイで、わたしは去年、出来ごころで参加した「西荻ブッ…

橋本平八から折口信夫へ、ボン書店経由で北園克衛へ いつもの東京ではなく、生誕地である三重で【異色の芸術家兄弟――橋本平八と北園克衛展】(三重県立美術館)を観たことで、いきおい郷里の風土のようなものが、兄弟の芸術にどのような影響を与えているのか…

青木繁《海の幸》、伊良子清白、モーリス・ドニ《セザンヌ礼賛》 青木繁《海の幸》をはじめて間近に観たのは、確か神奈川県立近代美術館の企画展だったような記憶があるけれど、それがいつのことだったかはもう思い出せない。とにかく「凄い絵だなあ」と思っ…

三重旅行記 その2 津の県立美術館を常設展まで堪能したあと、南下してその日は伊勢に泊まった。そこでいくつかの偶然が重なり、忘れがたい旅の醍醐味を味わったのだった、と言いつつ、ここでは詳しくは書きませんが。嬉しかった/愉しかった記憶は、それだけ…

三重旅行記 その1 夏休みに三重へゆく。名古屋で青色の車を借りて桑名から津、松坂、伊勢、鳥羽と伊勢湾の海岸線に沿うようにして南下する。今年はじめてひぐらしの鳴くのを聞いた。夕暮れでもないのに。まだ八月の半ばにもなっていないというのに。カナカナ…

少し前の話になるけれど、図書館で『左川ちか詩集』(昭森社、1936年)を閲覧する機会があった。黒色の装幀だったのがすこし意外で驚く。何となくフランス装の白っぽい本を想像していたのだ。三岸節子の装画がシックで、ぱっと見た感じはシュルレアリスムの…

ちょっとご紹介するのが遅くなりましたが、友人のmitsouこと奥村麻利子さんがわたしをモデルにイラストを描いてくれました。すこし気恥ずかしいけれど、でも嬉しい。さっそく本棚の上に飾りました(マリコさん、どうもありがとう)。題して「彼女は本ばかり…

「現代詩壇の代理人?」城戸朱理に対する「門外漢」高橋源一郎の応答: http://togetter.com/li/34662 これを読んで思ったのは、現代詩壇という場所はたいへん硬直しているんだなあということ。「門外漢」が詩について語ると、過剰とも思えるような反応が返…

今週末に北参道のBibliotheque(ビブリオテック)*1なるブックカフェ――スペルはフランス語なのに、読み仮名は促音のドイツ語ふうなのが不思議といえば不思議――にて行われる、平出隆『鳥を探しに』刊行記念トークショー「散文へのまなざし」にいそいそと予約…

長谷川りん二郎が戦前にアトリエをかまえ亡くなるまで過ごした場所が住んでいる家の近所だったと知ったのは、大判の画集『夢人館4 長谷川りん二郎』(岩崎美術社、1990年)を手に入れてからなので、もう二、三年前のはずだというのに、その場所をいちど確か…

折口信夫と尾崎翠のこと その2 「学校の後園に、あかしやの花が咲いて、生徒らの、めりやすのしやつを脱ぐ、爽やかな五月は来た。」(釋迢空「口ぶえ」) 「口ぶえ」という小説を読んで、折口信夫というか釋迢空と尾崎翠はつながるのではないか?と考えはじ…

折口信夫と尾崎翠のこと その1 川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』(岩波書店、2010年)というスリリングな著作に感化されて、ここのところせっせと折口信夫と尾崎翠のかかわりについて調べている。 と言っても、折口信夫と尾崎翠の「かかわり」なんてものはな…

山中富美子のこと 昨年の秋に石神井書林の目録に載っていた『山中富美子詩集抄』(森開社、平成二十一年九月)を手に入れてから、何度かぱらぱらと詩篇をいくつか読んではみたものの、これまでじっくり読むということをしてこなかった。詩集は小説と違ってつ…

高祖保を読むと雪がふる 昨日から今日にかけて、小躍りするよな嬉しいできごとがあったのだけれど、ここにそれを書いてしまうと小鳥が羽根をひろげて逃げて行ってしまうような気がするので、書かないこととした。 * 今日の昼休みは書庫に籠って、佐々木靖章…

玲瓏たる雪の詩人の肖像:外村彰『念ふ鳥 詩人高祖保』(龜鳴屋、2009年) 平出隆『鳥を探しに』を読み終えてからというもの、にわかにその辺に居る鳥のたぐいでもそわそわと気になりだし、時間がある時は、鳥を見つけると歩みを止めるようになった。その辺…

扉野良人さんより『sumus』第13号をお贈りいただいた。風のたよりでは、今号の晶文社特集は大へんに話題になっているということ、ありがたきことなり。 扉野さんのエッセイは京都の名曲喫茶クンパルシータと中川六平さんにまつわるもの。 クンパルシータ、懐…

あの美しい本、平出隆『鳥を探しに』(双葉社、2010年)(id:el-sur:20100125)がもたらしてくれた不思議な余韻にひたっている日日。 わたしにとっての良い小説とは、読み進めながらあれやこれやと泡沫の記憶を呼び覚ましてくれるものなのだが、この小説でも…

一月十六日、今日は昭和九年に岡田時彦が亡くなってちょうど七十六年目の日。 昨年の秋に出版された『女優 岡田茉莉子』を読んではじめて、お墓の場所が彼が少年期を過ごした横浜の光明寺にあると判り、すぐさま手帖で命日の一月十六日を調べてみると、2010…

昨年11月の西荻ブックマーク「平出隆×扉野良人」対談と、冬至の日の須磨でおこなわれた扉野さんの企画「とある二都物語」の余韻を、年があけてからもずっと引きずったままで、机の上にはいろんな詩人たちの詩集が散乱している。井上多喜三郎全集、高祖保詩集…

2009→2010 あけましてお目出度うございます。 2009年はいくつかの忘れがたい出逢いがありしみじみよい年となりました。 前半は尾崎翠にかかり切りでこれ以外はほとんど何もできなかったけれど、後半は詩とその周辺に身を置いて忙しくも幸福な時間を過ごすこ…

今回の旅の目的は「とある二都物語」に参加するためだったので、家人とふたり駆け足での神戸ー京都ゆきとなり、神戸では、お昼に「とんかつ武蔵」で貝屋のかまぼこ(竹中郁のご贔屓「ぐーっとまげても割れへんのや、うまい。」)を食べて感動したことと、閉…

『リアン』と『詩と詩論』と『詩・現実』のこと、それから衣巻省三 内堀さんが対話の中で、『リアン』が掲げたのはシュルレアリスムは革命の芸術であり、春山行夫の『詩と詩論』はフランスのシュルレアリスムの紹介にすぎないではないか!ということをおっし…

とある二都物語:山上の蜘蛛、あるいはボン書店の幻 モダニズム詩の光と影 海の見える瀟酒な洋館グッゲンハイム邸にて、扉野良人さん主催の「とある二都物語 山上の蜘蛛、あるいはボン書店の幻 モダニズム詩の光と影」に参加する。オープニング音楽は「かえ…

一月十六日、一月十六日:伊達得夫と岡田時彦 田中栞『書肆ユリイカの本』(青土社、2009年)とその展示とトーク・イヴェント「書肆ユリイカの本・人・場所」の余韻を引きずったまま、平出隆×扉野良人対談では「荒地」の詩人たちの話を聞き、間奈美子さん主…

透明な巨人:瀧口修造おぼえがき もうすぐ11月も終わり、真っ青な高い空にくっきり映える黄金色の銀杏が眩しい並木道を歩く日々もまもなく終わり。 必要があって*1、瀧口修造関連の本をその予習として読んでいるのだけれども、戦前から唯一シュルレアリスム…

またしても冨士原清一のこと ある日。 まっさおさおの空の下、駒場公園で降りて日本近代文学館へゆく。文学館へ至る道に植わっている花水木の葉が赤と緑と褐色のグラデーションでとても美しくて、それを見ると何故かいつも「林檎の礼拝堂」を思い出してしま…

帰宅すると、郵便受けに石神井書林古書目録79號が届いていた。あんなに安い買物しかしていないのに......じーんと感動の巻。台所の丸椅子に座り、蛍光灯の灯りで目録を眺めながら夕飯を作る、蕪の葉とじゃこ炒め、焼き厚揚、きんぴら煮、わかめご飯、長芋の…

雨が降ったからなのかどうなのか、昨日の夕方からとつぜん金木犀の甘い香りが鼻をかすめるようになった。 月曜日、古書会館で開催中の『書肆ユリイカの本』展にゆき、奥平晃一(田村書店店主)、郡淳一郎(元・青土社『ユリイカ』編集長)、田中栞(紅梅堂)…

先日の第34回西荻ブックマーク「ガルボのように---1920-30年代東京・モダンガールとしての尾崎翠」に拙文が掲載されました。こちら→http://nishiogi-bookmark.org/2009/nbm34report/ トークセッションで小澤英実さんが挙げられていた"The Modern Girl Around…

今夜の月はイナガキ・タルホ氏が腰掛けていそうな山吹色の三日月だ。 Ode to the Moon/稲垣足穂月はいいな! 泣かないし笑はないし いやに熱つぽくもないし ハイカラで美人だし 学者だし いつも孤独で新らしいのだし さうして同時に東洋的で西洋的の この品…

ユキや 先月の25日に実家のユキが死んだ。 長毛の白い毛並にところどころ黒の斑を付けて、少し緑がかったマスタード色の眼をした、とても人なつこい猫だった。年老いる前はぴんと張った立派な髭を生やした頬が、木の実を詰め込んだ冬眠前のリスのようにまあ…

週末つれづれ記: 先週の新文芸座での小津安二郎特集では、無事に岡田時彦主演の映画を二本鑑賞することができ、ほっとしているところ。改めて見直してみると『淑女と髯』(1931年)は傾向映画すれすれの危なっかしさ(字幕や脚本には無いものの髭面のマルク…

映画メモ:小津安二郎のモダニズム 新文芸座で小津安二郎特集がはじまっているというのに、雑務に追われてなかなか行けなかったのを、これだけは!と休みを取って観に行く。小津作品はしょっちゅう何処かで上映されているけれど、サイレント時代の作品は『生…

京阪神遊覧日記その三:大雄寺へ山中貞雄のお墓参りにゆく 阪急電車に揺られて京都へゆく。京都、ああ、ご無沙汰の京都....!こんなに好きな土地なのに三年振りである。京都の地に降り立つだけで嬉しくてそわそわ、三条のホテルにさっさと荷物を預けて、いざ…

京阪神遊覧日記その二:「けれども三昧」ー待兼山で『大大阪観光』(1937年)を観る 二日目は駆け足での大阪観光であった。阪急宝塚線に乗って、大阪大学総合学術博物館にて開催中の《昭和12年のモダン都市へ 観光映画「大大阪観光」の世界》を観に行く。成…

京阪神遊覧日記その一:神戸アカデミー・バーつれづれ 二年越しで訪問を心待ちにしていた1922年創業のバー・アカデミーにようやくゆくことができた。「つたのからんだ ある ふるい」小屋という感じの、つやつやした初夏の若草色の蔦に覆われたその建物は、バ…

久生十蘭「妖術」のモデルのこと 京阪神行きの資料も読みつつ、灰色のクロス製本が美しい『定本久生十蘭全集1』(国書刊行会、2008年)*1を合い間合い間に読んでいるのだけれど、1938年に執筆された三一書房の全集未収録の「妖術」という作品が気になってい…

HE COMES FROM KOBE 尾崎翠作品の初出誌を半日書庫に籠って色々調べていた時に、『新科学的文藝』に掲載されていた稲垣足穂の級友・衣巻省三の神戸に関するエッセイがちょいと素敵だったのでコピーしておいたのを今になって引っ張り出してみる。ええ、何故っ…

 シンポジウム「尾崎翠の新世紀」無事に全日程を終了いたしました!

ご出演いただいたみなさま、場所を提供してくださった日本近代文学館のみなさま、関係者ならびプレスのみなさま、そして何よりもこのシンポジウムに足を運んでくださったみなさまに心よりお礼を申し上げます。公式ページの方でご意見・ご感想を募集しており…

本日代休、歯医者の日。今月は文字通り休日返上で尾崎翠と入試業務(ようやっと終わった.....)の日々。それでも、これだけはと駆け込みで観に行った銅版画家・山下陽子さんとyoshinobの展示は、パリのギャラリーみたいな場所含めてうっとり指数120て感じの…

美しい装丁と洒脱なセンスで他の追随を許さない「日本のガリマール」(って今勝手に名付けた)こと、みすず書房の発行している、月刊『みすず』(http://www.msz.co.jp/book/magazine/)最新号no.568(2009年1・2月号)は「読書アンケート特集」。 みすずの…

「尾崎翠の新世紀」チラシ5000部が無事に届くべきところに届いたとの連絡。昨年秋から抱えていた懸案が、これでようやくひとつクリアになって、とりあえずほっとする。平山亜佐子さん(id:achaco)によるたいへん繊細で美しい仕事(タイトルは戦前の本からひ…

あけましておめでとうございます。 昨年は幸せなマキノ映画通いからスタートして幸先いいナアと思っていたのですが、下半期以降は非定型歯痛に悩まされつづけてかなりしんどかったし、11月からは色々とイレギュラーが重なってにわかに身辺慌ただしく、振返っ…